「笹の葉ですか……」
レアは店主の方を向く。
「ああ。今日は七夕だろう?急いで仕入れたんだ。どうだい、お嬢さん?」
懐かしい。
本当に子供の頃は願いが叶うものだと真剣に思っていた。
「いいですね」
今年は彼らがいる。
久しぶりに童心に帰るのも悪くはないだろう。


【笹と短冊】


「で、それをわざわざ買って来たって?」
アラギが髪をかき上げる。
「そんなの自生してるところから採ってくればいいじゃん」
ヒトの考えることは解らないとアラギは笑う。
これにはレアもいささかむっとする。
「自生しているものは余計な枝があって向いてないんです」
店主がおまけとしてつけてくれた色とりどりの短冊をカバンから取り出す。
「……ホントに七夕やるのかよ。星なんか見て何が楽しいんだ?」
アラギは七夕の事をただ星を見るだけだと思っている。
悪魔の七夕は願いなど託さないらしい。
レアは短冊に願いを書いた。
「ふーん。ヒトの七夕って願いが叶うものなのか?」
「空の天の川で年に一度しか会えない織姫と彦星が再会し、それにちなんで願いを叶えるんです」
細かいことは端折ったが、大体こんなものだろう。
アラギは納得がいかないようだ。
ここでレアはずっと黙っているアベルに声をかける。
「アベル様もいかがですか?」
「くだらない。子供騙しだ」
何が気に入らないのか笹の枝を睨みつけながら言った。
アベルは何が気に食わないのだろう。
せっかく年に一度の七夕なのに。


夜になった。
空は満天の星で満たされている。
「晴れてよかった」
レアは笹を飾った。
今いる建物は誰もいない小屋だ。
地下からは星が見えないので拝借させてもらった。
荒廃ぶりから見ると持ち主はここに執着がないらしい。
今夜のような日には最適の隠れ家だ。
窓の外に笹を飾り、団子も作った。
数年ぶりに作った団子は思ったよりうまくできた。
これでアベルも楽しんでくれれば言う事はないのだが。
「……あの方はこういう行事は慣れていないんだわ」
アラギはインセストを探しに出かけてしまった。
アベルは七夕には興味がないらしく、地下通路にいる。
「解っていたことだけど寂しい」
あの織姫と彦星のように……とまではいかなくても、もう少しどうにかならないだろうか。
――アベル様。
「レア」
思い浮かべたその人の声が外から聞こえた。
振り向くと、大きな笹を抱えたアベルがいた。
「アベル様?だって……」
嬉しい。
でもなぜ?
くだらないと言っていたのに。
「くだらないって言ったじゃないですか!」
「……オレは興味はない。だがお前は違うだろ」
笹が揺れる。
その枝には飾りがついている。
子供が作ったように無様な出来の飾り。
「お前の願いが叶うように。大きな笹の方がいいだろ」
レアの買った笹は小さい。
アベルはきっとそれでは願いが叶わないと思ったのだろう。
「……飾りまで作って下さったんですか?」
レアが笑う。
「……悪いか?」
「いいえ」
アベルは優しい。
世界中の誰よりも。
「それで、お前の願いは何だ?」
笹が揺れる。
アベルは驚いてレアを見る。
唇に残った感触がその願いを教えてくれた。
「……これです」
レアが照れて笑う。
アベルは真っ赤になって口を開く。
「馬鹿」











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2013年 7月7日 莊野りず

一年前レイジナで書いたので、今回はアベレアで。
たまにはレアが積極的でもいいと思います。
アベルはああ見えて初心だと信じてます(笑)。



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