レアが死んだ。
後ろではカインとマティアが殺し合いを演じているが、そんなことはどうでもいい。
レアがいない。
それだけでアベルの胸にはぽっかりと空白が空いたかのようだった。


【天国という名の監獄】


どうやらあれからカインもマティアも死んだらしい。
アベルは自分の身体が変質していることに気づいた。
インセストなしでは築く事もできなかった身体とは違いよくなじむ。
精神だけの存在になったようだった。
「レアはどこにいる?」
失ったインセストの能力はもうアベルにレアの居場所を教えてはくれない。
思えはレアはささくれだったアベルの心を癒してくれていた。
あの微笑みをもう二度とみることが叶わないのだろうか?
レアの躯を葬る勇気もなかったため彼女には墓もない。
「レアぁぁぁ」
アベルは叫ぶしかできない。
レアの魂はどこに行ってしまったのだろう?
「貴方のレアさんなら我々の天国にいらっしゃいます」
平坦のない声が聞こえた。
その声の主は確か視力がないという蒼髪の天使だった。
「お前は……」
「争いはやめましょう。私は貴方と戦いに来たわけではないのです」
ただレアさんに会いたがっているようだったので、とリプサリスはふっと笑った。
「なぜ教団の奴らが俺に?レアに何かしたのか?」
ここでリプサリスは曖昧に笑うと瞬間移動で消えた。
翼で移動するアベルに追いつけるわけがないので、追跡は諦めた。


法天使の治める島があるとアラギから聞いたことがある。
その島には白くて太い党が一つあるのみだった。
窓は明り取り用のものしかない。
アベルが受け付けを済ませ、レアが来るのを待っていると、背の高い赤髪の女天使が姿を現した。
「少年。お前はあの後、つまりカインとマティアが殺し合っていたところを見ていたそうだな?」
ルビエルは遠慮がない。
「ああ。『アベルはわたしを殺す』とか何とか言ってな。オレはレアの方が大事だったからよく見なかった」
「それだけ彼女はお前に尽くした『道具』だったわけか?」
「違う!他のインセストは死んでもなんとも思わなかった。レアだけなんだ!自分からオレに仕える何て変な事を言う奴は!」
「……だから彼女は手を汚したわけか」
「は?」
「いいか?彼女はここにいる。しかし器となる身体が死んでいるため魂だけだ。それでも、会う気はあるか?」
「ある!あるに決まっている!」
「その言葉に後悔するなよ」
ルビエルは意味深な目つきをした。


次にアベルが通された部屋は全てが白い部屋だった。
「アベル様」
不透明な姿ながらもレアはそこにいた。
「レア!」
あっれからずっと追い求めてきたレアの姿は全く変わっていない。
傷一つない。
「アベル様にお会いしたかったです、ずっと。でもここは『天国』という名の監獄なんです」
監獄という言葉にアベルは引っ掛かりを感じた。
「監獄って、お前は何も悪いことはしていないじゃないか!なぜそんなことになるんだよ?」
「お忘れですか?わたしもまた命を奪ってきました。十神将のホワイトフェイスもわたしが殺しましたし」
「でもそれはオレの命令で……」
「それは関係ありません。あくまでもわたしの意志で行ったのですから」
「……」
レアの勢いに何も言えなくなる。
しかしひとつ確かめたいことがあった。
「レアは死んだんだよな?じゃあ今ここでこうやって話しているレアはなんなんだ?」
「うふふ。やっと訊いてくださいましたね。今の私は魂だけの存在です」
「魂?」
「ペインキラーのようなものです。ほら、だから身体が半透明でしょう?」
レアは楽しそうだ。
「わたしの罪はそう簡単に解消できるようなものではないそうです。十神将も殺しましたし」
やけにけろりとしているレアに違和感を覚える。
「……お前、レアじゃないな?」
「あら?どうしてそう思うのです?」
「レアは総口数は多くない。自分からも多くは語らない。そして何よりレアは殺すことに必死で耐えてた!」
半透明のレアの姿が少年のものへと変わる。
「よく解ったね。彼女が別人だって。僕としては自信があったんだけどなぁ」
レアの影を破って出てきたのはテリオスだった。
アベルは怒りでペインリングを発動させようとする。
「本物ならここだよ」
テリオスは盾代わりにレアの姿をした白装束の少女を前に押し出した。
その瞳は限りなく本物のレアだ。
「レア!」
「アベル様!」
ペインキラーの攻撃を塔の一部に当てて、粉砕する。
「お前は……本物だ」
「先ほど騙されていたのはどなたでしたっけ?」
このやり取りだけで笑いが漏れた。


「わたしの罪の話は本当なんです。二百年の間、わたしはここから出られません」
「……良かった」
アベルは安心する。
「二百年ですよ?どこが良かったんですか?」
「二百年はオレが会いに来られる」
アベルの寿命は無限にある。
それならばこれほどいい話はない。
「……じゃあ、明日も会いに来てくださいますか?」
「オレが寂しいからな」
これからの暮らしにも困らない二人にとっては、互いがいるだけで幸せなのだった。










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2014年 月日 莊野りず

ヒトは死んだらどうなるのか、がテーマでした。
罪人は法天使様当りに監獄に入れられてるといいなーなんて思って書きました。
ホワイトフェイス殺しも結構な大罪だと思うのによくやったなー>レア
彼女は微笑むエンド前提です。
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