今日は何日も前から準備をしてきたバレンタインデー。
アベル様はきっと関心がないと思うけれど、喜んでくれたら嬉しいな。


【アベルとレアのバレンタイン】


「アベル様、どうぞ受け取ってください」
わたしがチョコレートの入った包みを渡すと、アベル様は戸惑った。
「なんだこれは?」
「チョコレートです。甘いものはお嫌いですか?」
アベル様は解からないと言った。
なんと今まで甘いお菓子は食べた事がないらしい。
「どんな環境で育ったんですか?」
わたしは純粋な好奇心から質問する。
アベル様は苦々しい顔をした。
「キボートスでヨハネとマティアと暮らしていた。詳しくはカインが知ってるはずだ」
その歯切れの悪い返事にわたしはいぶかしげな顔になる。
「はず、ですか?」
「そう、はず、だ」
アベル様の過去はわたしも気になる。
けれどアベル様は前ばかり見つめている方だから。
きっと後ろを振り返ったりしないんだろうな。
「レア!?」
「はい」
「お前ぼーっとしてたぞ。何を考えていた?」
わたしは自然に笑みがこぼれる。
「幸せだ、って思ってました」
アベル様の瞳がなぜ、と言っている。
「こうして外で自由になれて、好きな方と一緒にいられて、わたしは本当に幸せです」
するとアベル様の顔が赤くなる。
「言っておくが、別にお前のためじゃないからな」
「はい。解かっています」
素直ではないアベル様は自分の気持ちを認めようとしない。
だからわたしはアベル様の気持ちは共苦して確かめるしかない。
「……共苦はするな」
「え?」
思っていた事はほとんどアベル様に筒抜けだ。
「お前の望む言葉を言ってやる。だから耳を貸せ」
わたしは黙ってその通りにする。
いつもとは違う、アベル様のものとは思えない小さな声でアベル様の言葉を聞いた。
「好きだ」
そのシンプルな言葉はわたしを甘い気持ちにさせるのだった。
「もちろんわたしも大好きですよ」
チョコレートを渡す時点でそれは明らかな事。
けれどわたしは結局気持ちを伝えずにはいられないのだ。


「お帰りなさいアラギ様」
夜遅く帰ってきたアラギ様を迎える私の肩に手を置いて、アラギ様は手を突き出した。
「俺の分のチョコは?」
「ありますよ。はいどうぞ」
一口大の小さな粒チョコレートを手渡した。
「これだけかよ。どうせお前はアベルにはデカイチョコを渡したんだろ?あいつといいザイオンといい、無愛想な男の方がモテるのか?」
「さあ。好みの問題では?」
わたしはそっけなく返す。
「何だよつれねーな」
「すみません。明日は早いので寝ます」
翌日、アラギ様はアベル様に絡んだのは言うまでもない事だった。








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2013年 2月13日 荘野りず

アベレアバレンタインは甘く!
ラストのアラギとのやり取りはおまけです。
レアはアベル以外どうでもよさそう。



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