クリスマスだというのに、ホテルのロビーは相変わらず味気ない。
物資を切らしたアキラたちと偶然再会したリンは、早速アキラに抱きついた。


【トシマでクリスマス!】


「ソリドと水。何味がある?」
リンがクロークから戻ってくるといつの間にか源泉が合流していた。
「あれオッサン。何でこんなとこに?忙しいとか言ってなかったっけ」
リンが露骨に邪魔だといわんばかりの視線を源泉に向けると、ケイスケが庇うように言った。
「クリスマスに人気の諸々をリサーチしてるんだって。大変ですね、情報屋も」
「ふーん」
リンはアキラの隣に腰を下ろした。
アキラの向かい合わせに座ったケイスケと源泉はまたかという顔をした。
ここトシマで出会ってから、リンはアキラにべったりだ。
ケイスケは当然面白くない。
リンは交換したばかりのソリドを開けた。
なにやら甘い匂いがする。
「リン、何味だそれ。胸焼けがする」
源泉が訪ねるとリンがソリドのパッケージを見せた。
「クリスマスケーキ味」
ケイスケが読み上げる。
その顔は不味そうと言っている。
リンは齧りかけのソリドを口から話すと感想を述べた。
「いや、不味くないよ。むしろ好きな味だ」
「ほう」
源泉は手帳にメモを取る。
食事が終わるとリンはつまらないと言い出した。
「何が?」
大体予想はつくが一応訊ねてみる。
「クリスマスって言ったらプレゼントでしょ!こんな味気ないクリスマスなんてやだ!」
リンがむくれて答える。
気持ちは解らなくもないが、ここは弱肉強食の街トシマだ。
とてもじゃないがそんな余裕はない。
そう言いかけたケイスケを制したのは、なんとアキラだった。
「たまにはいいだろ。リンには色々と世話になってるし」
相変わらず無愛想だが、そこには楽しみを期待する歳相応の顔があった。
「お前さんがそんな顔するなんてな。おいちゃんも混ざろうか」
源泉がふかしていた煙草を消した。
「アキラがやるって言うなら」
と、ケイスケ。
「決まりだね。各自プレゼントになりそうなものを用意する事。十分後にここね」
リンは笑顔になって言った。


十分後。
源泉が持っていた紙を四分割したものに番号を振った。
ルールを考えたリンが説明する。
「これからポーカー総当たり戦をして、勝った順から好きな番号を言う。その番号がついた商品を受け取れる。どお?」
「異議はない」
イグラの基盤となるポーカーを使ってプレゼント交換。
トランプはリンが持っていた。
「なんでトシマにトランプなんて持ってきたの?」
というケイスケの疑問は流された。
まずはアキラ対ケイスケ、源泉対リン。
ポーカーはすぐに終わった。
源泉、アキラ、ケイスケ、リンの順で勝った。
「えー俺がビリ?」
リンは不満を漏らしたが、誰にも聞き入れられなかった。
そして源泉が手に入れたプレゼントはケイスケの物だ。
中身は缶詰数種類。
「まあ、お前さんのならこんなもんだよな」
源泉は流石に大人の対応だ。
アキラが手に入れたのは源泉のプレゼント。
「……煙草」
「貴重な戦前煙草だぞ。大事にしろよ」
「……ハズレだな」
そしてケイスケが手に入れたのがリンのプレゼント。
「写真かぁ。よく撮れてるよ、リン」
ケイスケは思いの他喜んだ。
アキラが写っている貴重なものだからだ。
最後にリンが手に入れたのがアキラのプレゼント。
「アキラのプレゼントかぁ。何入ってんだろ」
「あまり期待するなよ」
中身は……焼肉味ソリド数個。
「焼肉味って苦手なんだ。悪い、押し付けて」
「だったらサービスとして、食べさせてよ」
「え?」
ケイスケは固まった。
気を利かせた源泉がケイスケを引きずっていった。
「食べさせるって……」
戸惑うアキラをよそに、リンは早速ソリドを開けた。
「何ならキスでもいいよ?」
挑発するようなリンの態度に、アキラはかちんときた。
だったらやってやろう、そんな気になって一気にリンの柔らかい唇に自分のそれを重ねた。
誘ってきた本人であるリンは真っ赤になった。
まさか本当にするとは思わなかったのだろう。
「……これでどうだ?」
夜のホテルは若者でいっぱい。
そんな時に二人の事を気にかける者はいなかった。








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2012年 12月24日 荘野りず

ホテルでみんなでワイワイしてるのが書きたくて、最初は四人。
でもクリスマスって二人きりの方がロマンあるよね!という訳でケイスケ退場。
アキラが珍しく積極的です。



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