アキラとリンはデパートの菓子売り場に来ている。
『ホワイトデーセール』と書いてあるのぼりが数本立っている。
商品が陳列される台にもピンクの装飾が施されている。
「……」
こんな場所になじみのないアキラには厳しい場所だ。
思わず無言になってしまう。
リンは可愛らしくラッピングされたマシュマロなどの詰め合わせを見比べている。
「これがいいかな?いやあの子はマカロンの方がいいかなぁ。アキラはどう思う?」
飄々とこの場に溶け込むリンはさすがとしか思えない。


【ホワイトデー・ラブソング】


一ヶ月前、アキラとリンはいくつチョコレートを貰えるか競った。
勝負に勝ったのはリンだった。
敗者であるアキラはリンのリクエストでチョコレートを加工したのだが、それはとてつもなく不味かった。
そのバレンタインのお返しを選びに遠出してデパートまでやって来た。
アキラとしては受け取るだけでいいと思うのだが、リンは意外と律儀だった。
「だって、もらいっぱなしってチョコをくれた女の子に悪いじゃない」
そんなことを言ってアキラを連れ出したのだ。
リンのそう言われてしまうと断る理由もない。
観念してホワイトデー用のプレゼントを選び始めた。
「ホワイトデーのプレゼントですか?」
「?!」
背後から声をかけられ驚いた。
トシマにいた頃の気配を読む能力はなくなっているらしい。
女性店員は営業スマイルでアキラにクッキー缶を見せた。
「三種のクッキー詰め合わせです。このとぼけたクマが可愛いでしょう?十代の女子に人気のあるキャラクターです」
「はあ」
缶に印刷されたキャラクターはどこかで見たことがある。
「他にもマシュマロとティーバッグのセットなんかも人気ですよ」
どうやら彼女はアキラに狙いを定めたらしい。
一緒に来たリンは一人で売り場を見ているので、彼なりにこだわりがあるのだろう。
――リンは俺より女のほうがいいんじゃないのか。
こんな平和の中でいるとそんな事を考えてしまう。
「お客様?」
アキラは呼び止めようとする店員を無視して菓子売り場を離れた。


デパートの三階にはCDショップが入っていた。
ここもホワイトデー仕様にディスプレイされている。
十四日が終わるまでは街中この調子なのかとがっかりする。
リンはまだ買い物を終えていない。
その間時間があるので、CDを試聴することにした。
綺麗な音ではないが、力強い音でメロディを作っている。
CDジャケットを見ても聞いたことのないアーティストの曲だった。
「その曲、気に入ったんですか?」
また呼んでもいないのに店員が来た。
今度は頭にバンダナを巻いた同年代に見える男だ。
「まぁ、いいんじゃないか」
すると店員は嬉しそうに笑った。
「そうでしょう、そうでしょう!この曲は俺のためにダチが作ってくれたんス!」
「でもこれ……ラブソングじゃないのか?」
「男が男を好きで何か悪いんスか?」
男は胸を張った。
「確かに売れないインディーズだけど、こいつの声と作曲センスは世界一だと信じてるっス!」
やけにオープンな男だと思った。
アキラにはそれほど大胆な事は出来ない。
「おーい!アキラー!」
遠くからリンの声がする。
わざわざ大音量でアキラを呼んでいる。
「リン、ここだ」
その声でリンにもアキラの居場所が解かったらしい。
「もー勝手にどこか行かないでよ。心配するじゃん」
リンは両手に大きな紙袋を抱えている。
「悪い」
リンの姿を見つめた店員がなるほどという顔をした。
「お客さんの好きな人はいい男っスね」
「は?」
リンが怪訝そうな顔をする。
そしてアキラが試聴していたCDに目を向けた。
「あ、新曲出てたんだ。オニイサン、これ一枚」
「知ってるのか?」
袋に入れてもらったCDを紙袋に入れたリンに訊いてみる。
リンがこのCDを買うなんて意外だ。
「トシマを出て入院してた時によく聞いてたんだ。いい曲だよ」
他のも持ってるから聞かせてあげる、とリンが言うので帰ることにした。


「なにかを失っても〜希望はきっと残ってるから〜」
「これは入院中に聞いてたやつ。厳しさの中にほどよい優しさがあるんだよ」
リンは懐かしそうに目を細める。
「今日買ったやつは……『愛のバラード』か。……ところでアキラ、ホワイトデーのお返し買ってないでしょ?」
「そう言えば……」
女性店員に色々勧められたが、イマイチぴんと来なかったので買っていない。
リンは軽い溜め息をつくと紙袋を一つアキラに渡した。
「だろうと思って買っといた。全く、何しにいったんだか」
アキラは無言でCDをスタートさせる。
ピアノのメロディが流れて、優しげな歌詞が聞こえてくる。
「好きという気持ちに〜性別なんて関係ない〜」
どうやらあの店員の言っていた事は間違いないらしい。
彼の特徴が歌詞に出ている。
「これって俺たちにも当てはまるな」
リンは笑うとアキラに口付けた。






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2013年 3月14日 荘野りず

アキリンでホワイトデーです。
バレンタインがあの調子だったので、書き始めが難しかった。
歌詞は書いてて恥ずかしくなってきました。



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