――『ねぇ、運命ってあると思う?』
――『……予定調和、か』
――『予定なんとかじゃなくて、『運命』!』
それは記憶の忘却に沈んだ記憶。
その時の会話なんて、あまりにもたわいなかった。


【運命だと信じたい】


アパートの一室、アキラはそこで一人暮らしをしていた。
天気がいいので布団を干し、家事をちまちま片づけているところだった。
そこにチャイムの音が響く。
アキラは一瞬身構える。
トシマで着いた習慣が今でも見についている。
「おー俺だ。源泉だ!」
聞き覚えのある声に安堵すると、アキラはアパートののドアチェーンを外した。
源泉は日興連側に脱出後、フリーのライターをやっている。
アキラも何回かはこの仕事を手伝ったことがあるが、もう二度としたくない。
それくらい過酷な仕事だった。
アキラがお茶を持ってくると源泉は悪戯っぽく目を細めた。
「おいおい、おいちゃんはコレがいいのよ」
そう言って手でグラスの形を作る。
「悪いな。俺はあまり飲まないから」
「そこで真剣に謝んなって!」
源泉はアキラの背中をバシバシ叩いた。
「……それで、俺に会いに来たって事は……」
「おう。リンの足取りが掴めた」
源泉は煙草を取り出して火をつける。
リンが戻ってきた時に煙草臭い部屋はご免だと言われそうだが、今は許そう。
「それで、今リンはどこに?」
期待を込めたアキラの言葉に源泉は煙を吐いた。
「片足切断、今はそのリハビリ中だって話だ」
「……え?」
トシマにいた頃、リンは誰よりも俊敏で、追いつくことが出来なかった。
そのリンが……片足切断?
アキラは源泉のシャツを掴み上げた。
「本当なのか?!あのリンが、リンが!」
源泉は抵抗らしい抵抗もしない。
ただ俯いている。
「……嘘だろ?いくらイル・レが誰でも斬るって言っても兄弟なんだぞ?」
「その兄弟のイル・レを殺したのもリンだ。今まで無敗の王様に勝ったんだ。片足は選別のつもりだったんだろう」
「……っつ!」
アキラにはそれ以上言葉が出てこない。
あの時リンを行かせたのは自分だ、それは認める。
でもそれがリンにとってベストな選択だから行かせようと思っただけだ。
「ちっくしょう!」
アキラはアパートの壁を殴った。
元Bl@sterチャンプのパンチは簡単に安アパートの壁を粉々にした。
源泉はアキラに胸ぐらをつかまれたままだ。
「……実は俺はリンに会ってきた」
「なんだって?」
「リンの奴に内緒にしてほしいって頼まれてたんだ。いきなり会いに行って驚かせたいって」
源泉の瞳をまっすぐ見て、やっとアキラは源泉を開放した。
彼は苦しそうに息を吸っている。
「アキラはまだBl@sterを観戦しているのかって訊いてきた。だから俺は頷いた」
トシマでの戦いの後ならBl@sterなら物足りなく感じてしまう。
それはアキラも一緒だった。
一種のスポーツ感覚になってしまったBl@sterには興味が持てず、今は観戦のみだ。
少なからずリンが好きだと言っていた昔のものに戻りつつあるのかもしれない。
「さてと。オイチャンは帰るぞ。戸締りしっかりな」
「オッサンこそ気をつけて」


それからアキラは出来る限りBl@sterが行われている場所を探した。
怪しげな露天商やくだらないおしゃべりを続ける若者たち。
アキラは心が折れそうになるのを感じた。
それでも諦めきれなかったのは、自分とリンは運命で繋がっていると確信できたからだった。
そしてついにその日はやってきた。
あの日より伸びた身長、変わらない面影、変わらない笑顔。
「ただいま」
リンは確かに帰って来た。
足も健常者と変わらない働きをしている。
「……遅いんだよ、馬鹿」


そんな二人の様子を見守る一つの影があった。
「……予定調和」
nは二人の、特にアキラの様子を









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2014年 10月16日 莊野りず

健気にリンの帰りを待ってるアキラとそれを見守る(?)nの話でした。
リンもリハビリ大変だったと思います。
それでもちゃんとアキラの元に帰ってくるんだから男前ですよね!



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