この頃俺は変だ。
隙あらばカズイに想いを打ち明けそうになる。
男が男を好き、なんて気味悪がられるに決まってる。
だから俺の「好き」は「ダチ」としての好き。


【どこが好き?】


今日は一日中太陽が照っていた。
さぞかしいい星空が拝めるだろうと期待して、廃ビルを登る。
ここに来るまでは呑気に歩いてきたけれど、屋上の人影を認めて、俺の足は階段を駆ける。
果してそこにいたのは俺の想い人――ダチでもあるけれど――カズイ。
俺が屋上の入り口で荒い息を整えていると微笑んだ。
「リンにしては来るのが遅かったな」
こんなに星が綺麗なのにとカズイは顎をしゃくる。
「他チームの制裁。名前は覚えてない」
ペスカ・コシカの、というか俺のやり方は『やられたら倍にしてやり返す』。
それを知らないカズイではない。
その上で『制裁』には暗に反対している。
今も整った眉を困ったように寄せている。
「……何度言ってもやめるつもりはないのか?」
「ないね」
俺は即答した。
制裁は実力を示すチャンスであると同時に持て余した力の発散の場でもあった。
チームの面々はどこか制裁を楽しんでいる。
俺はそれをどこか冷めた目線で眺めている。
「せっかく星が綺麗なのに」
星が綺麗なのと制裁の良し悪しには因果関係はないはずだ。
なのにそんな事を言うカズイがどこかおかしかった。
「……確かに綺麗だ」
俺はそっとカズイの隣に腰掛ける。
適度な距離を保ちつつ、肩と肩が触れるくらいには近づく。
このままカズイの肩に頭を乗せてみたい。
けどそんな事をしたら引かれるのが関の山だ。
俺はこのままでいい。
時間はたっぷりあるんだから。


次の日もキンキンに太陽が照っている。
暑くて玉の汗がダラダラ流れてくる。
今日は制裁の予定もないし、シャワーでも浴びてから廃ビルに行こう。
そう予定を立てる。
「それにしても暑いな。何とかなんねーの?」
この調子ではBl@sterに出場する気にもならない。
一日中ぐうたらして過ごそう。
「保冷剤ならある。使うか?」
カズイの差し出す保冷剤は少し前の俺の誕生日に買ったケーキについてきたものだ。
誕生日祝いなんてガキっぽいと反発していたけど、みんなに祝われるのは悪くない。
そんな事を思ったのを覚えている。
「ああ、サンキュ」
俺は額に保冷剤を乗せ、カズイが買ってきたアイスを口に含んだ。
「ああ、暑い!何とかなんねーのかよ」
暑さで苛々したトモユキが俺と同じくアイスを咥えながら癇癪をおこした。
この溜まり場にはシャワーがあるがエアコンはない。
そろそろ別の溜まり場を発掘するか。
出来れば冷暖房完備のところがいい。
そんな事を考えているうちに俺は眠ってしまったらしい。


目覚めたのは深夜二時で、俺は慌ててシャワーを浴びて廃ビルを目指す。
夏はこんな時間帯でも暑い。
走ると汗をかくことは解っていたが、カズイと二人きりになるにはあのビルしかない。
もしやもう帰っているのかもしれないとも思ったが、まだ星は出ている。
「カズイ、いるか?」
俺が足を引きずりながら屋上のドアを乱暴に開けると、やはりカズイはいた。
一人で何か考えている。
「……リン」
何やら様子が変だ。
「カズイ?」
カズイは汗まみれの俺を抱きしめると肩に頭を垂れた。
「カズイ!」
どうしたのかと言外に問いかけるが、それには答えてくれない。
「リンは俺のことを好きだって言ったよな?どこが好きなんだ?」
カズイの頭に顔を寄せると酒の匂いがした。
「お前飲んでるのか?いつも俺にはダメって言うくせに」
「教えてくれよ、どこが好きなんだ?」
「全部、全部好きだ」
覚悟を決めて一世一代の告白。
カズイは驚いたかな。
そう思ってカズイの方を見ると……。
「俺も好きだ」
目を閉じてそう言った。
しかし酒を飲んで目を閉じているという事は寝言の可能性もあるわけで。
俺はその言葉を聞かなかったことにした。


大丈夫、まだ時間はあるんだ。
その時が来るまっで待てばいい。
この時の俺は時間が無限にあると思っていた。
けれど同じときはもう来ない。






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2014年 10月25日 莊野りず

リン→カズイでした。
ちょっとギャグとシリアス?カズイは酒強そうなイメージがあります。



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