自分では裏表はない方だと思う。
嫌いな奴には冷たくするし、好きな奴には素直に接する。
でも好きすぎる奴にはどうしても言えない。
幼い頃にテレビで見た魔法使いのように、魔法が使えたらいいのに。


【魔法の条件】


Bl@sterで勝つのはもはや当たり前になっていた。
どのチームも相手がペスカ・コシカだと聞いただけで逃げ回る。
それこそ面白いほどに。
敵対したチームには必ず報復を行うという事も恐れられる一因だったに違いない。
リンはそれで満足していた。
……つもりだった。
いつの日からか、そんな『当たり前』の日常が煩わしくなってきた。
勝つと解っている試合、逃げ回る集団を追う高揚感、仲間との触れ合い。
自分が望んだはずなのに、どこか空しい。
「……どうかしたのか?」
祝賀会――と言えば聞こえはいいが、ただの馬鹿騒ぎの最中。
カズイがチューハイの缶を片手に話しかけてきた。
「何が?」
「何がって、リンがぼけっとしてるなんて珍しいからさ」
カズイは心配そうにリンの瞳を覗き込む。
「俺だって考え事とかするんだよ」
そこでカズイが意外そうな顔をしたので、リンは一気に不機嫌になった。
その様子を見てカズイが察してくれたようだ。
「難しい事なんて考えるなよ。リンはリンなんだから」
それだけ言って、カズイはリンの前から消えた。


少々酔っぱらった頭で廃ビルに上る。
頭はふわふわしているが、足元はしっかりしている。
見上げると満天の星空。
リンの大好きな空の姿が視界いっぱいに広がっている。
手に持った缶チューハイを飲みながら、どうすればカズイに気持ちを伝えられるかについて働かない頭で考える。
「……いっそ自我がなくなっちゃえば楽なのになぁ」
そう呟きながらチューハイを口に運ぶ。
いつもよりピッチが速い。
元々リンはあまり酒が強くない。
あっという間に酔っぱらってしまった。
秋の涼しい風に吹かれて、リンは心地よい気分で眠りに落ちた。


「……ン。リン!」
聞こえてきたのはカズイの声。
辺りは薄明るくなっていた。
「ああ、もう朝か」
昨日飲みすぎた酒のせいか、頭が割れるように痛い。
「もう朝か、じゃないだろ?俺がどれだけ心配したと思ってるんだ」
子供扱いにはムッとしたが、心配してくれたことは素直に嬉しい。
「サンキュ。俺カズイのそういうと大好きだ」
まるで魔法のように素直に出てきた『大好き』という言葉。
言ってしまった後でしまったと思ったが、時すでに遅し。
「なんだ、俺はてっきりリンに嫌われてるんじゃないかと思ってたよ」
「何で!」
「説教ばっかりでウザがられてるんじゃないかって心配だったんだ。でも、そんな必要はなかったみたいだな」
素直になれる魔法の条件、それは案外取るに足らないものかもしれない。
例えばただの缶チューハイが物事を進めてくれたりするように。








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2014年 10月26日 莊野りず

咎狗には似合わない『魔法』という言葉の入ったお題でした。
とことん私の書く咎狗の話には酒が出てくるなぁ(苦笑)。
リンは酒は好きだけど弱いというイメージがあります。
ビールで酔っちゃうとか。



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