愛してる。
……って言われてもピンとこない。
大好き。
……これも違いはしないが微妙なところ。
そもそも俺は愛情にも恋心にも縁がなかった。
だから今になってから悩むんだろう。


【貪る、喰われる】


今日は俺もリンもバイトは休み。
いつも休日にはそうしているように、今日も俺たちは暖かな陽の光を浴びながらくつろいでいる。
リンはデカい図体のくせに猫のように身体を丸めて、俺の膝を占領している。
おかげで正座をしているわけでもないのに足が痺れてきた。
「……おい。いいかげんにどけ。重い」
するとリンは上目遣いに俺を見て、
「ダメ?」
なんて駄々をこねる。
五年前ならいざ知らず、もういい歳なんだから、こんな子供じみた真似はやめて欲しい。
……それでも、この大きな子供が好きな俺は重症なんだろう。
「よっと」
リンは勢いをつけて起き上がると、ずいと俺に迫る。
「……久しぶりに、しない?」
いつも『何を』とは言わない。
それがリンの狡いところで、俺はいつもその誘いを断れない。
たとえそれが真っ昼間の事でも。


相変わらずリンの肌は触り心地がいい。
陽の光に照らされるリンの肌は陶器のように、白くてすべすべしている。
こうして触れるのは久しぶりなのに全く日に焼けていない。
シキも色白だったし、リンの家系は色白ばかりなのかもしれない。
……なんて、余計な事をぼんやりと考えていると、手の甲をつねられる。
「今、なに考えてたの?」
言外に不満を訴えながらも、行為に集中しようとするリン。
思えば最初からリンは受け身で快感を貪るのが好きだったな。
トシマで自暴自棄になっていた時もそうだったし。
「もっとがっついてもいいよ?」
こうやって挑発してくるのも変わらない。
たったの五年じゃ長年染みついた性分は変わらないんだろう。
俺はリンの素直に挑発に乗って、言葉通り細い首筋から鎖骨にかけてのラインにキスを降らせた。


「……ねぇ、アキラ」
「ん?」
この時期に裸でいるのは流石に肌寒い。
大人しくダブルベッドで温め合っていると、リンが声をかけてきた。
せっかく気持ちのいい温度でいるのに水を差すなよ。
「たまにはさ、俺に抱かれてみたくない?」
「ああ……それもいいかもな。……って、ん?」
訂正する前に、リンは恐ろしいスピードで俺に覆いかぶさってきた。
「ちょ、ちょっと待て!今のは……」
慌てて止めようとしても、図体のでかい分、俺は不利だ。
「じゃあ、いっただきまーす!」
リンは満面の笑顔。
まずは小手調べとばかりに息が苦しくなるような、長いキス。
リンの舌が口内に入ってきて、舌が絡まりそうになる。
「ん」
……悔しい事に、キスはリンの方が遥かに上手い。
女にも男にも興味のなかった俺が夢中になるくらいに。
「優しくしてあげるから、安心してね」
ようやく唇を話したリンが笑顔でそう言った。
……俺はこのままリンに喰われるのか?
そんな不安を俺が抱いているとは露にも思ってないんだろうな。
リンは俺を感じさせようと頑張っている。
「……気持ちいい?」
不安げに訊いてくるリン。
それ自体は悪い事じゃない。
でもな……悪いけど、全然感じないんだ。
「……アキラ?」
リンがキョトンと俺を見る。
「やっぱり俺がやる」
問答無用、隙を与えずに身体を反転させる。
それだけで俺の言いたいことは察したらしい。
「俺って……ヘタ?」
男としては屈辱なんだろう。
俺だってはっきり言われなくても気を悪くする。
だから苦手ながらもフォローは入れておく。
「下手とは言ってない。ただ俺は抱かれるより抱く方が好きなんだ。相手がお前なら特に」
……本当に、色々とめんどくさい。
でもこんなめんどくさいのが幸せの証なんだろうな。
貪るのも喰われるのも、リンが相手なら真剣になれる。
……なんだ、俺も大概リンを愛してて、大好きなんだな。





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_ 2014年 11月2日 莊野りず

たまにはアキラ視点で、アキリンの他に微妙なリンアキ要素を入れてみました。
個人的にリンは受け経験は豊富だけど、攻め経験はないんじゃないかと思ってます。
だってトシマ時代は細身&ちびっこだし、押し倒せる相手なんてろくにいなさそう。
再会までの五年間だってリハビリとかで忙しかっただろうし、テクニックを磨いてる時間はなさそう(そんな時間があったら再会を優先するだろうし)。



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