トシマで別れて、五年。
我ながらよく待っていたものだと思う。
それだけ心の余裕というものができたという事か。
それゆえに少し怖い。
このままリンに依存してしまうかもしれない。
このままリンと離れられなくなる危険もある。
――それ以上に怖いのは……。


【一番怖いもの】


源泉の助手としてカメラマンのバイトを始めたリンは、割と朝が早い。
昨日は互いに久しぶりだったせいか手加減が出来なかった。
それなのに泣きごとひとつ言わずにバイトに出ていくリンは偉いと思う。
俺はというと午前七時頃までゆっくり寝ていた。
七時半になる頃になってやっとぬるい布団から出てくる。
今日はバイトは休み。
外は晴天。
こんな日は散々酷使した布団を干すのにもってこいだ。
「やっぱりな」
昨日の行為の跡がバッチリ残っている。
こんなものをご近所さんの前に晒すわけにはいかない。
シーツを外して洗濯し、布団の臭いを消すために消臭剤を振りかける。
これで少しはマシになったはずだ。
一通りの作業を終えると流石に汗が出てきた。
この時期は暑かったり寒かったりして、体温調整が難しい。
そういえば昨日のリンは震えていなかっただろうか。
もしかして風邪か。
暑い時期の風邪は厄介だと身に染みて知っている。
リンは何でもない顔をして出て行ったけれど、本当に大丈夫だろうか。
……急に心配になってきた。


三日後、源泉に連れられて帰ってきたのはぐったりとしたリンだった。
「おう、今戻った!」
上機嫌で源泉はアパートのドアを開けた。
「『今戻った!』じゃないだろう?!リンはどうしたんだ?!」
自分でも驚くほどの怒気を孕んだ声が出た。
「おいおい……何か誤解してないか?リンは仕事終わりの祝杯に誘ったらたったの一杯で潰れちまっただけだぞ?」
「え?」
リンの酒癖は知っている。
強くもない癖に濃いカクテルを好んで飲む。
自分の限界値を解っていないから酔いつぶれるまで飲んでしまうのだ。
その事は何度も一緒に酒を飲んだアキラが一番よく知っている。
「……なんだよ。リンのやつ、心配させて……」
俺が大きく溜め息をつくと、源泉は苦笑した。
「リンもお前さんに愛されて幸せだねぇ。妬けるよ」
からかいの言葉と解っているものの、アキラはカチンときた。
「俺がこれだけ心配してたっていうのに。どうせ飲むならここで三人で飲めばいいじゃないか」
心配して損した。
源泉は相変わらず真意の読めない顔でリンをアキラに渡すとさっさと去って行った。


「ん?アキラ?なんでここにアキラがいるの?」
リンの酔いがさめてきたようだ。
口うつしで水を飲ませたおかげか。
「馬鹿。ここは俺たちのアパートだ。お前は酔いつぶれて源泉に連れられてきたんだ」
「……ああ。おぼろげながら思い出してきた」
リンは不快そうに頭を押さえて水の入ったコップを手に取った。
一気に中の水を飲みほす。
「俺がどれだけ心配したと思ってるんだよ。風邪ひいてるんだろ?」
「え?……自分では風邪だとは思わないんだけど」
「震えてたくせに?」
こう言ってしまえば何も言えないだろう。
実際にリンは黙り込んでいる。
「俺はリンを失うのが一番怖い。もうケイスケの時のような思いはまっぴらなんだ!」
口調を荒げて言うとリンは頷いた。
「俺も、アキラがいなくなったら……って思うとぞっとする。お互い一番怖いものが相手をなくすことなんてね」
そう言ってリンは笑う。
頭は痛そうだったけれど、その笑みには以前にはない穏やかさがあった。















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2014年 6月22日 莊野りず

アキリンでした。
百合っぽくもあるけれど、男らしさ漂うカプだと思います。
たまには女々しいアキラもいいんじゃないかと試験的に書いてみました。



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