「ケイスケってさーアキラの幼馴染なんでしょ?」
「アキラは嫌みたいだけどね。俺が一緒にいると損な事ばっかだし」
ケイスケは自虐的に笑う。
「どーしてそう考えるかなー。好きな人とずっと一緒にいられるだけで幸せって人種は一定数はいるよ?」
その中には当然、カズイが好きだったリン自身も含まれている。
しかし過去に好きな男がいたと言っても、見たところノンケなケイスケには引かれるだけだろう。
それにこの鈍い男に言っても無駄だ。
「そういうものかなぁ。なんか違う気がする」
ケイスケの煮え切らない態度に苛々したリンは、つい口走ってしまう。
「羨ましいよ……好きな奴が生きてて。俺、嫉妬しそう」
「何でだよ。嫉妬されるような事は一切ないよ?」
ケイスケはアキラの周りにいる連中を思い出していた。
――エース、ディー。
彼らの事を思い浮かべると、心が嫉妬で支配されてしまう。
こんな事を知られたら、もう一生アキラの連れ扱いはしてもらえない。


【隅々まで知っている】


「それで、ぶっちゃけどこまでアキラのことを知ってるわけ?洗いざらい話してよ」
本人がこの場にいないのをいい事に、リンは目を輝かせて、ケイスケに迫る。
「ちょ、近いよ!俺だって四六時中アキラのそばにいるわけじゃないから知らない事ばっかりだよ」
「ふーん。でも幼馴染なんでしょ?俺よりは詳しいんじゃない?ある意味スペシャルな関係だし」
「スペシャル?」
その言葉がケイスケの口を軽くする。
リンはこの手の話術はお手の物だ。
「じゃあ、少しくらいなら。子供の頃は苛められてる俺を助けてくれて……」
「うんうん」
「まず、相手の顔面にパンチを一発、よろけたところで腹に一発蹴りを入れて、最後にアッパーってパターンが一番多かった」
「……うん」
そんなことを聞きたいわけではない。
「おかげで孤児院の中では孤立してたけど、いつもオムライスを作ってくれる女の人には心を許してたみたいでさ、俺は軽く嫉妬してたなー」
「あーもっと面白い話とかないの?好みのタイプの話とか」
どうでもいい情報を聞かされても面白くない。
リンが求めているのはアキラ自身が話そうとしない細かいプロフィールなのだ。
ケイスケの言う事は検討外れだ。
「好みのタイプ?……うーん。色んなタイプの女の子が試合の観戦に来てたけど、いつもどうでもいいって言ってたし……」
「アキラらしいね」
じゃあ参考にはならないか。
リンは心の中で舌打ちする。
「ただ、気まぐれなんだろうけど、たまに猫に餌をあげてる事はあったよ」
「動物には優しいんだ?」
「嫌いではないんじゃないかな。そう言えば孤児院で――」


あれは冬の寒い日の事だったっけな。
いつものように俺が苛められて、アキラが相手をコテンパンにした後、どこかに消えたんだ。
どこに行ったんだろうと辺りを探していたら、年下の女の子を慰めてて驚いた。
彼女は花冠を作ってアキラに渡そうとしたんだけど、アキラはこういって突っぱねたんだ。
「俺はお前みたいな奴に物をもらう謂れはないから」
……かっこよかったなぁ。


「へ、へぇ……」
リンは微妙に顔を引きつらせる。
話の前後が関係していないし、そんな昔の事を覚えているケイスケが不気味だ。
「他にもまだあるよ。あれはBl@sterを観戦しに行ってた時だっけ――」
Bl@sterと聞いてはリンの血も騒ぐ。
「Bl@sterで?」


「コイツ、あのLOSTの連れだってよ」
「コイツボコったらあの澄ましたツラも歪むかなぁ」
「アイツの前でボコってやろうぜ!」
俺はアキラを好まない輩に因縁をつけられて殴られそうになっていたんだ。
そこに颯爽とアキラが現れて、こう言ったんだ。
「……ソイツは俺の連れでもなんでもない。ただの一般人だ。見逃してやるから消えろ」
……きっとアキラは俺を庇うために連れじゃないって言ったんだろうな。


「……」
なぜここまで鮮明に覚えているのだろう。
気味が悪い。
しかしケイスケは真顔だ。
「おいそっちから話せって言ったんだろ?何か言ってくれよ」
「……ゴメン。ホントケイスケってアキラの事なら隅々まで知ってるんだね」
皮肉のつもりで言ったのだが、ケイスケは全く堪えていない。
「そう?ありがとう」
善人オーラを振りまくこの男がアキラにとって一番の危険人物であることを彼に伝えるべきか、リンはしばらく悩んだ。








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2014年 11月27日 莊野りず

ぶっちゃけケイスケってアキラのストーカーじゃね?的な話でした。
『どこに行ってもついてきた』とアキラがモノローグで言ってたので、そこから話を膨らませてみました。
リンは何とか平静を保ってますが、内心ではドン引きです。



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