最強チームペスカ・コシカ。
そのナンバー1とナンバー2の出会いは意外なほど知られていない。
トシマで新たにペスカ・コシカに入りたいといってきた連中を前に、トモユキは躊躇した。
――言っていいものか。
カズイは死んでいないからいいものの、リンは幸か不幸かまだ生きている。
トモユキとしてはかって畏怖した憧れの存在、それがリンだ。
だからリンとカズイの出会いを他人に話すのは気が引けた。
――おかしいな。俺はこんな性格じゃないはずなのに。
自問自答しているうちに周りの「聞きたい」コールは音量を大きくしている。
「しょうがねぇな」
トモユキは俺は悪くないと自分に言い聞かせながら話し出した。


【伝説の始まり】


「うらぁ!」
「なんの!」
ARIA:GORSTのBl@ster最終戦。
相変わらずここの試合に出る奴は筋肉質なマッチョばかりだ。
トモユキはいつも通りの試合を見るのに飽きて来た。
――もっと魅力的な対戦カードはねぇのかよ。
オッズも拮抗しているし、こんなつまらない試合に金を賭けるのもつまらないと思う。
「トモユキ」
穏やかな声が耳に入る。
「カズイ。お前どこ行ってたんだよ」
苛立ちも露わに尋ねるとカズイは心底すまなそうに誤った。
「向こうに面白い奴を見つけたんだ。喧嘩慣れはしてないみたいだけど、素早そうな奴」
「へぇ」
その話題には少し興味を持った。
カズイは大体の試合の勝敗を十中八九当てている。
そのカズイが「面白そう」というのなら、オッズの上がる試合が見られるかもしれない。
「それで、そいつはどんな奴なんだ?」
トモユキが興味を持ったことに満足したのか、カズイは笑顔でその特徴を語る。
「身長は小さいけど、根性はありそう。小柄で女子みたいな奴だよ。明日の試合で戦おうって約束したんだ」
「ふぅん……って、お前、Bl@sterに出場するつもりか?」
一度も出場したことのないトモユキとカズイからしてみれば一世一代の勝負だ。
「ああ。向こうも楽しみだって言ってたよ」
あまりにも楽しそうに言うので毒気を抜かれてしまった。
――思えばこの時から俺はリンの事が気になっていたのかもしれない。


翌日の試合で姿を現したのは確かにカズイの言葉通りの少年だった。
予め男だと言われていなければ確実に女だと間違えていただろう。
小柄な……というか貧弱な体格にしか見えない身体と、特徴的な金の髪が印象的だ。
青い目は二ホン人離れしていた。
カズイとその少年は握手をしてから互いに睨み合った。
電光掲示板にオッズが表示される。
「マジかよ……」
少年の倍率はカズイの五倍だった。
こんな事は前代未聞だ。
少なくともトモユキの知るところではない。
審判が試合開始を告げると、少年は素早くカズイの懐へと入り、拳を一発浴びせた。
カズイは決して弱くない。
街でチンピラに絡まれても二、三人くらいは何とか追い払える。
――カズイの奴、手加減してんのか。
そうとしか思えなかった。
反撃はするが必要以上に攻撃を加えない。
対して相手は容赦なく蹴りを浴びせてくる。
十分ほどして審判が少年の勝利を告げた。


「いやぁ、強いなリンは」
手当てを受けながらカズイは呑気に笑っている。
「笑い事じゃねぇよ!あんなチビに負けるなんてお前らしくねぇよ!」
トモユキがそう吠えると近くに立っていた少年がこちらを見た。
「誰がチビだ!俺はリン!手加減するなって言うから……」
リンは少しは反省しているらしく、語尾が詰まった。
それを聞いたカズイは激怒した。
「……もしかして、手加減してたってのか?俺を馬鹿にしてるのか?」
「だって怪我させたのは事実だし……」
「それが馬鹿にしてるって言うんだ!」
トモユキはカズイらしからぬ物言いにただただ驚いた。
そしてカズイとリンはお互いがボコボコになるまで殴り合った。


「まぁ……始まりはこんなもんだ。どうだ?」
新しく入ってきた連中は面食らっている。
その中の一人がぽつりと呟いた。
「そんな、殴り合いから出来たのか?……正直聞いてがっかりだ」
伝説のチームだと聞いていたからもっとロマンチックだと期待していたのだろう。
トモユキはそれにも慣れていた。
「へっ。世の中綺麗事ばかりじゃねぇよ」
そう言うトモユキ自身複雑な顔をしていた。







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2014年 6月14日 莊野りず

ペスコシ結成捏造。
トモユキは昔からカズイとつるんでいた気がする。
リンは容赦なしって言っても最初は躊躇したんじゃないかと思います。



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