――アイツを見てると苛々する。
トモユキの視線の先にはアキラの腕に自分の腕を絡めているリンの姿が目に入った。
――カズイが死んで間もないのに!
トモユキの苛々はどんどん深みに嵌っていく。


【苛々の理由】


リンが一人で歩いている時が狙い目だ。
他の仲間がいたら、到底トモユキはリンには敵わない。
この苛々の正体は一体何なのだろう。
トモユキはリンがカズイを好きだったことを知っている。
最初は拒絶するしかなかったが、リンの真剣そのものの顔を見ているうちに応援したくなった。
トモユキだってリンが好きだった。
それでも相手があのカズイなら諦めるしかないと、そう思っていた。
認めたくないが、カズイはトモユキよりも格上の存在だった。
だから、リンの事は諦めるという選択肢しかなかった。
それなのにリンは新しい想い人を見つけている。
これを裏切りと呼ばずなんと呼ぼう。 トモユキは仲間の数名にリンが一人の時に連れてくるよう指示した。


その頃リンは中立地帯のホテルで写真の現像を頼んでいた。
クロークの親父とも慣れたもので、軽い世間話をする。
アキラとケイスケはそんなリンの楽しそうな顔を、どこか遠い目で見ていた。
「アキラ、ミカサもこんな感じだったっけ?」
「……さあな」
アキラは何かが気に障ったのか、会話を止めようとした。
ケイスケにとっては良好な家庭環境だったとしても、アキラがそうとは限らない。
容易く予想できたことだった。
リンは写真の束を受け取ると、アキラたちの元へ駆け寄ってきた。
「じゃーん!俺が撮ったアキラのベストショット!」
ケイスケが恐る恐る写真を見てみると、貴重なアキラの寝顔の写真があった。
「リ、リン!こんなもんどこで……」
「シッ!周りはハイエナばっかりなんだよ?もう少し落ち着きなよ」
リンがそう冷静に諭しても、ケイスケはいつ撮ったのかという質問を絶やすことはなかった。


アキラたちと別れて数分後、リンは見かけない男たちに取り囲まれていた。
男たちはリンとの距離を確実に詰めてくる。
「まさかお前ら……トモユキの!」
よく解ったなという顔で、男の一人がリンの手足を縛った。
「何すんだ!やめろ!」
リンは手足をバタバタと動かして抵抗したが、細いリンの腕では抵抗もできない。
リンはそのまま映画館へと連れていかれた。
映画館という事で、リンにはこの首謀者が解った。
「……気分はどうだ?トモユキ」
「俺だって解ってたんだな」
そんな冷たい会話が交わされる。
目隠しこそされてはいないが、手足を縛られている。
そんなリンに抵抗することは出来なかった。
「俺たちの場所で、お前を犯してやりたいと思ってた」
トモユキが熱っぽく言う。
「お前に出来るのか?カズイと違ってヘタレのくせに」
その言葉で、トモユキの理性は崩壊したようだった。
「そっちこそ良すぎてよがるんじゃねーよ」


リンとしては両手首と足首を縛られたままするのは意外と気持ちいい。
もしかしてマゾかと思うが、そんなはずはない。
どちらかと言えばリンはSだ。
「ここのところ、とろとろじゃん」
トモユキは嬉しそうにそう呟く。
「そんなの演技だ。残念だなぁ。カズイの事を想って抜いてたら、勝手に反応するようになっただけだ」
このリンの一言で、トモユキは水を浴びせられたかのような気分になる。
「……嘘、だろ……」
まさかリンが死んだカズイの事を今まで引きずっているなんて思ってもいなかった。
――まさかカズイを亡くしたことでリンがここまで苦しんでいるなんて。
「嘘じゃねーよ。俺に手を出したいんなら、もっと策を練る事だな」,br> リンは自由になった両手首と足首を動かしながらそう答える。
それがいかにも余裕に満ちていて、トモユキはますます苛々した。
苛々の理由はいくらでもある。
しかし、今度からはリンを襲うような真似はしないと決めた。










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2014年 11月4日 莊野りず

トモユキって短気そうなイメージなので、お題に使いました。
リンはカズイに対しては初心だとイイ。
そんな個人的な萌えを詰め込んだ一作なのでした。



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