凶悪チームペスカ・コシカ。
やると決めたら徹底的にやる、それがヘッドであるコートの信条で、チーム全体の信条でもあった。
……ただ一人を除いては。


【タイマン】


その日、リンがカズイの使っている部屋のドアをノックなしに開けると、彼はどこかに出かけているらしかった。
チーム随一の慎重な性格の彼には珍しく、行き先を告げるメモの類は一切見つからなかった。
「……どこに行ったんだよ。せっかくいいとこ見つけたのに」
リンが不満を露わにその辺を物色してみる。
よくチームの仲間はグラビアを回し読みしている。
リン自身はそれほど興味が持てない質だったから、その辺は大目に見ている。
いや、それ以前にBl@ster参加者=躾けのなっていないチンピラ集団だから、風紀も何もあったものではないのだけれど。
とまあ、そんなワケでリンはカズイがその手の雑誌を所持していたら、いつもやり込められる仕返し程度にはなるだろうと軽く考えての行動だった。
カズイの部屋には安っぽい鉄パイプでできたベッドとカラーボックスのみ。
リンの部屋と家具自体は違わないが、性格の違いで、リンはいつも散らかしてばかり。
やろうと思えばできるのにやらないというタイプの典型なのだ。
それに比べてカズイの部屋はカラーボックスの中にも藤でできた籠に替えの服をしまってあったり、武器をハンカチのカーテンで隠したりと工夫が施されている。
女の様だと思ったが、それでもいざという時に頼りになる男――それがカズイだ。
結局狭い部屋を一時間ほど探し回ったものの、グラビアの類は一切出てこなかった。
「……らしいっちゃらしけど。なんかつまんねーの!」
リンは理不尽に今ここにいないカズイに文句を垂れる。
グラビアではないが、Bl@sterの強豪チームや個人戦の優勝者へのインタビュー記事が載っている雑誌は服で隠されるように置かれていた。
当然一時間も調べたからには、そのくらいは気づいていた。
しかし気にも留めなかった。
個人戦なんかに参加するのは本当の友達と酔える仲間がいない、可哀想な奴が出るものだと勝手に思い込んでいたからだ。


時を同じくして、エリア:レイ。
ここは強豪の地として勇名を轟かせている。
ケイスケは今日も工場長から少し給料をひく代わりに早退を許可した。
もちろん、アキラの試合を生で観戦するためだ。
最初はBL@sterなんてただの暴力的な人間がやるものだと勘違いしていたが、真剣勝負とあってはみんな一様に暑苦しいノリである。
そんな中、いつでも我が道を好きなように歩むアキラはケイスケにとって憧れと尊敬の対象だった。
やがてアキラの試合が始まる時刻だ。
掲示板には常連であるアキラの国民番号の他に、この辺りでは聞いたことのない国民番号が表示された。
「あれ?」
ケイスケは首を傾げる。
アキラは連続優勝者、しかも負けなしだからシード権が与えられるのは当然だが、この見知らぬ国民番号の主は一体誰だろう。
そう思ったのはどうやらケイスケだけではないらしい。
「オイ、どうなってんだよ」
「シードが新入りとか……マジ舐めてんのってカンジ?」
周りは一斉に野次を飛ばしたが、登場した相手の顔を見て、みんながみんな驚いた。
――ロストがもう一人!?
ケイスケはアキラと長い付き合いなだけあって仕草などの何気ない動作の違いで別人だと解ったが、周りはそうではない。
やれドッペルゲンガーだ、やれニセモノだ、やれやれ殺れ殺れ殺れ……。
当人であるアキラも、いつものクールフェイスを崩している。
相手は真面目に握手を求めてきた。
「お前に会いに来たんだ、ロスト」
アキラをより大人っぽくして、物腰を柔らかくしたようなその青年はアキラに向かってカズイと名乗った。
審判はいつもと勝手が違う事に動揺しながらも、無難な実況をした方だと思う。
なにせどちらがどちらなのか見分けがつかないからだ。
それほどまでに二人はよく似ていた。
その試合ではアキラが辛勝、相手はあくまでもスポーツマンという言葉が似合いそうな去り方をした。
彼の後をついて行く女もいたが、全く相手にされていなかった。
「……もしかして、アキラって兄弟とかいたの?」
「……まさか。でもアイツ、俺の狙いにつくづく気がついて、そこを重点的に狙ってきて、実はピンチだった」


カズイはその日の出来事を星を見ながらリンに話すのが好きだった。
リンはそういう暴力沙汰の話を好んだ。
彼は薄々、カズイが道場破りまがいのしていることも知っていた。
勝者が弱者を追い詰めるのは強いものだけに与えられる特権だ。
リンはそんなカズイの行動に対してつい甘くなってしまう。



後にアキラは顔も知らなかったリンに過剰反応される事になる。




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2014年 12月6日 莊野りず

アキラってカズイに似てるんだよね?という話を書きたかっただけです。
いくら冷静なアキラでも同じ顔した奴が相手だったら戸惑うんじゃないかと。
ケイスケは見分け楽勝でしょう(笑)。



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