アキラとケイスケがホテルに着いた時、リンと源泉が楽しそうに話をしていた。
「あの二人のあんな様子を見てるとトシマにいるなんて思えないよな」
ケイスケはどこか嬉しそうだ。
「……何がそんなに嬉しいんだ?」
「だって、トシマであんなに平和そうな雰囲気なんて滅多にないじゃないか」
ケイスケらしい毒気のない言葉に、アキラは内心どこかホッとした。


【戦士の休息】


「あーアキラじゃん!何時着いたのー?」
リンはアキラに気づくと、さっそく抱きつこうとしてきた。
アキラは抱き付かれる前にリンを抑え込んだ。
「そういうの嫌いなんだ」
「えーちょっとくらいいいじゃん!アキラのケチ!」
リンがむくれてみせるとケイスケはまた笑う。
「……リンって俺の母さんみたいだ」
「それってどーいう意味?俺が女みたいって事?」
「ごめん、そんなつもりで言ったんじゃないんだ」
「悪気がないところが逆にタチ悪いんだよ、ケイスケは!」
リンがますますむくれると、源泉が止めに入る。
こんな光景にも慣れてきた。
「ところで、二人で何の話してたんですか?仕事の事とか?」
ケイスケは源泉に向き直って尋ねた。
「いやぁ、これと言って……な。最近暇でしょうがないから、何か金になりそうなネタがないか聞いてただけだ」
「そうだ!聞いてよ二人とも!このおっさんさー、タダで俺に仕事を手伝わせようとしてたんだよ?ずるいよねー」
二人の言う事が微妙にかみ合っていない。
これにはケイスケも苦笑い。
「はは……。でも何もないって事は平和って事でしょう?それならいいじゃないですか」
無難な返事をするケイスケにリンが噛みつく。
「この街に来てる奴はほとんど刺激を求めてんの!みんながケイスケみたいな奴ばっかじゃないの!」

そう言いながら、ケイスケの耳を引っ張るリン。
こんな光景にも、いい加減に見飽きてきた。
「刺激、ねぇ。じゃあどうせ暇なんだし、王様ゲームでもやらないか?」
「王様ゲーム?」
「なんですか、それ?」
「……」
三者三様の反応を示す三人に、苦笑する源泉。
「なんだ?今の若い奴は知らんのか?リン、割りばし持ってるか?」
「持ってるけど……何に使うのさ」
リンが割りばしを源泉に渡すと、冠マークと一から三までの数字が書き込まれた。
「同時にこのくじを引いて、冠マークを引いた奴が王様。何でも命令できる。ただし名指しは駄目だぞ。○番が何をするーとかの命令ならオーケーだ」
「それってアキラとのキスのチャンスもあるってこと?やるやる!」
リンは乗り気だ。
「キスぅ?ダメダメ!俺もやります!」
ケイスケも参加表明。
源泉は満足そうだ。
「……で、お前さんは?」
この流れで断れない。
「……やらないって選択肢はないんだろ」
周りの二人がここまで盛り上がってしまっては水を差すことに罪悪感がある。
結局、アキラもこの場の悪ノリに流された。


「やった!また俺が王様だ!」
ケイスケが本日何十回目かの王冠マークを引いた。
今のところアキラが二回、源泉が三回、あとは全てケイスケが王様を引いている。
リンは一度も王冠マークを引いていない。
「命令は何にしようかなー。あ、二番が一番に肩たたき三分!」
「ゲッ!俺、二番じゃん!また肩たたき?つーかケイスケ、もっと面白い命令はないわけ?」
「おっ、おいちゃんが一番だ。肩たたき頼むぞー、リン!」
「わかったよ」
リンがぶつくさ文句を言いながら源泉の肩を叩く。
「……ケイスケは強運の持ち主だからな。トシマにも強運だけで来たようなものだし」
「えーなにそれ!?詳しく聞きたーい!」
源泉の肩を叩く手が乱暴になってきた。
「いや、俺はただアキラの後を追ってきただけだよ」
その一言でリンの興味は失せた。
「なーんだ。つまんない!つかさ、ケイスケさっきからズルしてない?いくら強運だってそんな連続で王様引くなんてありえないでしょ」
「いや、ズルなんてしてないよ!みんなで同時にくじを引いてるのにできっこないだろ?」
ここで源泉が煙草を一服。
煙を吐きながら欠伸をする。
「んじゃあ、そろそろ眠くなってきたし、次の一回で最後にするか」
「それならさー任意の相手に好きな命令できるってのはどう?それなら俄然、勝てそうな気がする!」
「……お前は本当に勝ち負けにこだわるなぁ。でも却下だ。王様ゲームってのは誰がその命令を聞くハメになるのかワクワクするから楽しいんだ」
「ちぇー」


そして、最後のくじ引き。
王様を引いたのは源泉だった。
彼は眠そうで、考えが及ばないようだったが、命令だけはきっちり出した。
「じゃあ最後に過激な命令行くぞ?一番が三番にディープキス!」
オヤジ独特の悪ノリか、睡魔に襲われた故のやけっぱちか。
一番はアキラ、三番はリン。
「ほらほらアキラ、一番なんでしょ?俺にキス!早く!」
リンは夜になるとテンションが上がるタイプなのか、大はしゃぎ。
「ちょっと待てよ!アキラは嫌がってるじゃないか!」
「でも嫌がる俺にオッサンの肩たたきさせたのはケイスケだよ?」
これを言われてはケイスケにはぐうの音も出ない。
ケイスケは大人しく、アキラとリンのディープキスを間近で見せつけられることになった。
その原因となった源泉は今、夢の中。
誰も責められないケイスケは、やはり”いい人”でしかないのだった。







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2014年 11月8日 莊野りず

王様ゲームネタ大好きです!
無茶で過激な命令も、王様ならしょうがないと思えるところが素敵。
ケイスケは普段は割と運がいいけど、いざという時の運には恵まれていない気がする。



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