相手にわざとぶつかり、反応を待つ。
反抗してきたら敵対するだけだし、それと解っていて無視したなら弱虫と罵る。
最強チームペスカ・コシカのそれはただの挨拶代わり。
骨のない奴を相手にするのはつまらないし、時間の無駄だ。
……この頃のリンは荒れに荒れていた。

Mbr> 【挨拶代わり】


「最近つまんねーな」
トモユキがぼやく。,br> 最近戦った奴らはどいつもこいつも骨のない奴ばかりだった。
トモユキの不満も解る。
「俺らより強いチームなんてねーよな」
廃工場でだべっていると、カズイが神妙な顔でリンの元へ近づいてきた。
「……どうしたんだよ?」
何か嫌な予感がして、リンはすぐには返事を返さない。
「……報復をしたチームの奴らにゴロ―たちがやられた」
「……なんだって?」
ゴロ―というのはごく最近チームに入ったばかりで、ペスカ・コシカの名を利用するだけの小物だ。
しかし群れが大事なリンにはそんな事は関係ない。
やられたら倍にしてやり返す――それがリンの信念であり、チームの信条だった。
「おい、お前ら。挨拶代わりにアイツらのチームに殴り込みに行こうぜ!」
リンがそう提案すると、辺りから歓声が巻き起こる。 「さすがは俺たちのリンだ!」
「ヘッドならそう言うと思ってたぜ!」
「リンが行くってんなら俺が行かねーわけにはいかねぇよな?」
次々と名乗り出る者たち。
こんな時リンは実感する。
――チームを作ってよかた。
「よしお前ら、とっとと攻めるぞ!」
リンの宣言にトモユキを含めた大勢は大いに頷くのだった。
カズイは何も言わない。
言ってくれない。
何かを言うとリンを責める事になるからと遠慮しているのかもしれない。
それでも、何でもいいから声をかけて欲しかった。

ゴロ―がやられたというチームの溜まり場に着くと、リンはスティレットを片手に立ち回った。
ここはBl@sterではない。
よって刃物の持ち込みも可だ。
リン一人だけで、半分の人数は片づけた。
トモユキが茶化すように笑う。
「リンを怒らせたくはねぇな」
そうは言ってもチームのヘッドへの尊敬は忘れない。
トモユキもバタフライナイフを片手に敵の群れへと突っ込んだ。
「お前があのペスカ・コシカのヘッドか?」
体格の立派な大男がリンに問いかける。
「そうだけど?」
「女みてぇな顔してんだな。一度は寝てみたいな」
下種の笑みを湛えたこの男は酒臭かった。
まだ昼間だというのに。
それだけ自分に自信があるのかと思うと、リンの全身が覚醒する。
戦うという事はリンにとって神聖な行為だった。
「……挨拶代わりにうちの新入りをやってくれたそうじゃん?やられたら倍返しって決めてんだよ!」
リンはスティレットを男の太腿に深く突き刺した。
男は低く呻くと、そのまま倒れた。


溜まり場に戻ったリンを一番に出迎えたのはやはりカズイだった。
本当は誰よりもリンの事を心配してくれるが、それは仲間たちの前では見せない。
「……どうだった。すっきりしたか?」
返り血に濡れたリンの身体を拭きながら、カズイは穏やかだがどこか責めるような声で問うた。
カズイが『報復』に対していい感情を抱いていないことは知っている。
それでもやらずにはいられない。
「解らない」
それでも報復をせずにはいられない。
このリンの衝動が収まるまで、カズイはリンの身体を丁寧に拭いてくれた。
挨拶代わりの報復の帰りにこうしてカズイに世話をされるのは悪い気分ではない。
リンは猫のように背伸びをし、カズイにもたれかかるのだった。




_________________________________________
2014年 7月6日 莊野りず

荒れてた時期でもリンはカズイには弱いと良い。>br> カズイの出番は少ないですが、一応カズリンです。
リンはカズイと出会った事で変わり始めているといいなぁ。



咎狗トップに戻る
inserted by FC2 system