――昔から笑顔を見るのは嫌いだった。
――昔から弟の泣き顔が好きだった。
だってその方があの青い瞳が際立つから。


【笑うより泣いて】


訓練校を卒業して、シキが勤め始めたのは裏稼業の人間の始末屋だった。
当初思っていたよりも天職で、シキはいかんなくそのスキルを発揮していった。
時にそれは快感となり、時にそれは自己嫌悪をもたらした。
弟と再会したのもその頃だった。
「兄貴!」
弟――リンは昔と変わらない、明るい眼でシキを見た。
それが異様に眩しく映った。
それは昔にはなかった弟独自の輝きだった。
「今は何をしている?」
こんな質問にも顔を赤らめながら嬉しそうに語り始めた。
「俺らはペスカ・コシカってチームでBl@sterに参加してるんだ!最強って言われて久しいんだぜ!」
これで解った。
実家にいたころにはなかったリン瞳の輝きはそのチームのせいだと。
兄であるシキは長男と言うだけで父親の言う道を歩いているというのに、なんて自由なのだろう。
シキの瞳に暗い情念が宿るのをリンには見抜けなかった。
きっと浮かれていたからだ。


Bl@sterのチームの一人や二人はシキの敵ではない。
しかし少しでも楽しみたい。
そんなシキの気まぐれでカズイたち留守番メンバーは嬲られた。
理由はそれだけではない。
実家にいたころのリンがどうしてあんなにも前向きになったのか、その疑問の答えを探していた。
「あ……あんた、は?」
「俺はこのチームのヘッドの兄だ」
カズイが血を吐く。
「どお、りで……どこか似てるわけ、だ」
「似ている、だと?」
カズイの首元に日本刀の柄の部分を突き立てながら、シキが尋ねる。
「俺とアイツのどこが似ている?答えろ」
「そういう……ところだよ」
カズイがまた血を吐く。
これではどんな病院でも助からないだろう。
「……」
シキは喉に何かが引っ掛かるような感じを味わったが、ここはこれで良しとした。
仕事の目標は達成したし、弟も逃がすことが出来た。
後は帰るだけだ。
「シキっ!」
その時だった。
リンがシキの名を叫んだのは。


リンは目元に光る滴を貯め込んでいた。
恐らくもう仲間が助からないことを悟っているのだろう。
「なぜだ?俺が憎いなら俺を殺せばいいだろ!」
シキは微笑む。
「なぜ俺がお前の自殺を手伝わなければならない?悔しいのならば追って来い」
リンはカズイへと駆け寄る。
既にこと切れたその身体からは熱が奪われていく。
「なんでだよー!」
――そうだ、その顔が見たかったんだ。
シキはリンのなるべく見せないようにした泣き顔を見て満足げに微笑む。
――お前は笑うより泣いた方が似合うのだから。








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2014年 4月30日 莊野りず

うちでは珍しい(?)シキ→リンです。
シキアキでも攻略考えたんですが、うちはリン受けサイトですのでこうなりました。
シキリンはもうちょい増えてもいいと思う。やっぱり近親相姦ってのが受け付けない方には無理なんですかね?



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