無分類30のお題 →TYPE1

28、月齢ゼロ


 
生まれたばかりの弟は、羊水でふやけていた。
前妻の息子であるシキも物心がついていた頃だったし、弟が出来るのは素直に嬉しかった。
ずっと一人で本を読んで、父から押し付けられる勉強からも解放されると思っていた。
何よりも一人で過ごしていたシキに構う相手が出来たのだ、嬉しくないはずがない。
……しかし父から受け継いだ性質はそう簡単には変わらなかった。


「シキ君、この子はまだ月齢ゼロだから、優しくしてあげてね」
弟の実母、シキからしてみれば継母はそう言った。
生まれてからまだたったあの二週間。
未熟児とし生まれたその子供はリンと名付けられた。
シキはこのリンに夢中になった。
他のなにもかもが目に入らなくなるほどに。
それは歪な愛情の始まりだった。


後妻であるリンの母親は、本能的にシキを恐れていた。
『シキ』と呼び捨てにしないのもその辺りが理由だ。
ある日、ミルクの時間だとせわしなくなったころを狙って、シキはリンの眠っている部屋を訪ねた。
「……義母さん」
「あら、珍しいわね。どうしたの、シキ君?」
彼女は必死で笑顔を作ろうとしていたが、そんなものはシキにはお見通しだった。
「リンのミルクの時間でしょう。僕にやらせてもらえませんか?」
シキはあえて『僕』という一人称を使った。
この言葉は不思議なもので、毎日稽古のために木刀を振っているシキでも『優しい兄』として彼女には映った。
「そうなの。シキ君さえ良かったらあげてみて。お兄ちゃんからだなんて、きっと喜ぶわ!」
継母は上機嫌でミルクの用意をさせた。
「……二人きりにしてもらえませんか?僕は兄としてリンの事を可愛がりたいんです。でも義母さんがいると恥ずかしくて……」
そこまでリンの事を気に入ったのかと、かのおじょはますます悦び、シキの言う通りにした。
それがシキの狙いだと気づかずに。


二人きりになった途端、シキはリンを見下ろした。
少し力を入れただけであっさり折れてしまいそうな細い手足。
思わず触りたくなるような、幼児特有の頬。
……そんなものになど一ミリも興味はなかった。
「リン、ミルクの時間だ」
幼い弟もしょっちゅう部屋に来る兄の顔は覚えているのだろうか。
もしくは臭いか何かで判別でもしているのか。
……そんな事すらどうでもよかった。
シキはパステルブルーのベビーベッドから弟を抱き上げると、勢いよく哺乳瓶の乳首をリンの口につきつけた。
小さな口で一気に乳首を吸い込むのは乳幼児にとっては大変な苦痛だ。
当然リンは顔を歪めて苦しそうにもがく。
鳴き声は唇を封じられているので出したくても出せない。
リンの目元から涙が溢れる。
「腹アが減っているんだろ?遠慮するな」
シキは無理矢理哺乳瓶の角度を急にした。
当然、口のの中に入るミルクも量が増える。
「……っ、……」
リンの顔は涙でぐしゃぐしゃに汚れ、全身をばたつかせる。
それでもシキはこの愉快な遊戯をやめるつもりなどない。
が、残念な事に哺乳瓶の中のミルクも尽きた。
これでは今日は無無理だ。
シキは今までの態度が嘘のように、リンを優しくあやした。
年が近い事で安心したのか、先ほど苦しめた張本人だというのに、リンは自分の全てを預けて眠りについた。


そんな生活が何年も続き、リンは完全にシキに服従している。
させられているのではなく、自主的に。
幼い頃からの歪んだ愛を真実のものだと信じて疑わない五歳になったリンは、今日もシキから何を教わろうかと、そればかりを楽しみにしている。
シキはそんなリンの姿を見て、大変満足なのだった。





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2015年 2月18日 莊野りず

流石にきつかったお題です。(いつも同じような事を言ってる気がする)
シキリンは兄弟で、『近親相姦』『愛憎』だからこそ萌えるんです。
このシキは歪んでる版「好きな子ほど苛めたい小学生男子」的なものだと思ってください。



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