無分類30のお題 →TYPE1

30、遠く遠く遠く…


  

いつもの夜、いつもの廃ビル、いつもの夜空。
リンはカズイと共に今日も飽きずに星空を眺める。
ほぼ毎日のように繰り返される、この時間。
これはずっと変わらない、ずっと続く。
そう信じて疑わなかった。
血なまぐさい喧嘩の時間が嘘のような、大事な、大切な、カズイとのこの時間がリンは何より好きだった。


「……いつか行ってみたいなぁ」
リンがある日呟いた。
なぜかいつも一緒にいるトモユキは、今日は風邪でここにいない。
だからこその発言だった。
どこへ?なんて訊かなくても解った。
「そうだな。俺も、行ってみたい。……リンと一緒に」
さりげなく爆弾発言をするカズイに、照れたことを悟られたくなくて、並んでいるフェンスから離れる。
廃ビルのものにしてはしっかりした造りのそれがぎしっと鳴る。
「……何かあったのか?」
そうさらりと訊いてくるカズイは天然か。
彼は自分の言葉がどれだけリンに影響を与えているのか、全く理解していない。
いや、敢えて言っているだけかもしれないけれども。
「……別に。カズイって俺を混乱させる天才だよな」
照れてそんな事を口走る自分に、少しだけ自己嫌悪。
本当は彼のことが好きでたまらないのに、口をついて出てくるのはいつもの悪態のみ。
それでもカズイはリンを責めたことは一度もない。
報復の時は悲しそうにするけれども。
「……遠くに行きたい。この空の上、遠く遠く、遠くに……」
どこか夢心地のリンは思わず言っていた。
カズイが傍に寄って来て、優しく囁く。
「俺も、行ってみたい。行こうと思ってる、リンと一緒に……」
彼の言葉に驚くリン。
自分から言い出したこととはいえ、カズイに同調されるとますます恥ずかしい。
カズイは構わず続ける。
「俺さ、宇宙飛行士になりたいんだ。だから、そのための勉強もしてる」
「いつも読んでる本って、教科書だったとか?」
内心でドキドキしながら尋ねると、彼はこくんと頷く。
「体力はもちろんだけど、知識も必要な職業だろ?だから暇を見つけて」
そう言って笑うカズイが眩しく見える。
リンには夢がないからかもしれない。
「俺が宇宙飛行士になれたら、一緒に連れて行ってやるよ」
「……簡単に言いやがって」
そう返しながらも、リンも笑っている。
それからしばらく、宇宙に行ったら何をするか、具体的な話をした。
本当に夢が現実になったような、そんな時間だった。


それから、彼との再会がリンの楽しみにしていた未来を無情にも奪い去った。
昔から、リンの大事な、大切なものをことごとく奪って来たあの男が、またしても。
「……カズイ」
リンは大事なひとの抜け殻を、ただ眺める事しか叶わなかった。
血で汚れ、傷だらけの身体、清められてもいないそれは逆にリンから『悲しみ』という感情すら失わせた。
それは果してよかったのか。
リンは遠くを目指す事を決意した。
彼と目指す場所ではない、もっとどす黒い感情にあふれる街へ。
リンは遠く遠く遠く……、カズイと離れていく。
せめて、仇を取るために。





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2015年 2月27日 莊野りず

前半ほのぼの気味なカズリンだったはずなのに……どうしてこうなった。
一応プロット(もどき)はあるんですよ、どの話も。ごく簡単だけど。
でもたいていの場合、下手にキャラを動かすからこうなるんです。
今年はもっとまともな話を量産したいところです。




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