無分類30のお題 →TYPE1

7、蕾(アキリン・大人リン)


今日はリンもアキラも休みの日だ。
 安アパートとはいえ、庭は好きに使えるよう、住人音にスペース分けされている。
 今日はここの植える花や植物をホームセンターに買いに行くつもりだ。
 「でもどうせなら食べられるものの方がよくない?」
 「うーん。でも犬のフンとかかかったら食えるか?」
 「ちょ、そういう事言うのやめてよ。……じゃあアキラの希望は花だね」
いつの間にか話が進んでいるのも、リンと暮らし始めてからは違和感を覚えなくなった。


ホームセンターは休日なだけあって混んでいた。
 主な客はやはり家族連れだ。
 特に普段親に遊んでもらえない子供たちは、売り場を嬉々として走り回る。
 「……なんかいいな。お前らも昔はあんな感じだったのか?」
ちょうどリンとシキくらいの歳の差がありそうな男の子二人を見つけたアキラが尋ねる。
 未だにこの国はランダムの家族のシステムが残っている地域もある。
 「俺とアイツはあんなに仲良くはなかったんじゃないかな。俺があの子くらいの時には必死でライバル視し始めた頃だったし」
リンはカラッと答えるが、尋ねたアキラはいたたまれなくなる。
 「悪い」
 訊いてはいけないことを訊いてしまったようで、謝らずにはいられない。
リンはわざと大げさに驚いて見せた。
 「何遠慮してんのさ。今更だろ?」
 一緒に暮らして毎晩ヤってる仲なんだから、なんてことをアキラに耳打ちしてくる。
そういう雰囲気の時はありだが、ここはホームセンターで、自分たちは花を買いに来ているのだ。
 思わず怖い顔をせずにはいられない。
 「あは、アキラって表情がくるくる変わるようになったよね。それってもしかして、俺のおかげだと思っていいの?」
 「調子に乗るな」
きっぱり言って、花のコーナーへ向かう。
 季節柄、咲いているものは少ないものの、品種自体は多そうだ。
アキラは係員を呼ぶと、春から夏あたりに咲く花について訊き始めた。
リンはつまらなさそうにその辺をぶらぶらしている。
 彼は花に興味が持てないのかもしれない。
 「……そうですねぇ。華やかな感じをご希望でしたら、やはり薔薇などいかがですか?」
 「薔薇」
 「価格はピンきりですが、モノによってはきっとご満足いただけると思いますよ」
 「じゃあ、赤と黄色、それから青に近い色があれば、それ下さい」


 薔薇の種を買って帰ってきたアキラは、さっそく庭いじりを始めた。
リンはと言えば土が手につくのが嫌だと言って、部屋の中で掃除をしている、はずだ。
 最初は土が硬くて苦心したが、柔らかくなってくると面白くなる。
 「そう言えば、孤児院でも砂遊びはしたっけな」
ケイスケに付き合わされて仕方なく、だったが、今では懐かしい思い出だ。
テレビでやっていた土のマイナスイオン効果とやらも馬鹿には出来ない。
 土に腐葉土と適度な肥料をマニュアル通り与えて、やっと種まきだ。
 店員は話しかけると綺麗に咲くとアドバイスをくれた。
 「……綺麗に咲けよ」
アキラは思わずそのアドバイスを実践していた。


 春になると芽が出てきた。
 薔薇の目というのはこういうものかとしげしげと眺めていると、リンの「遅刻するよ」コールが飛んでくる。
リンは育ちはいいはずなのに、なぜか植物が好きではないらしい。
アキラはリンと同時にバイト先へと出かけた。


 芽はどんどん大きくなり、やがて蕾になった。
 蕾になった薔薇には赤、黄色、淡い紫の色がついている。
 食器を洗っているリンに向かって、こっちへ来いと合図する。
 渋々リンはこちらに来た。
 「どうだ?綺麗だろ?」
アキラは初めて自分の手で咲かせられそうな薔薇の花に興味津々だし、実際早く咲けばいいと思っている。
 「……アキラさ、黄色い薔薇の花言葉って知ってる?」
 「知るわけないだろ。なんなんだ?何が気に入らないんだ?」
 話してくれなきゃ解らないという態度をとると、リンは重い口を開いた。
 「俺が七歳の頃の誕生日プレゼントに、シキが黄色の薔薇をくれたんだ。花言葉は友情だから、これからも兄弟仲良くしよう、なんて言って」
それの何が悪いのだろう。
シキだって当然幼い日があったはずだし、ペスカ・コシカの件がなければきっとシキは今でもリンにとっての『憧れの兄』のままだったに違いない。
 「……シキが言いたかったのはそんな事じゃなかったんだ。母親の花言葉の本には黄色い薔薇の花言葉は友情の他に嫉妬があったんだ」
 「どういう事だ?」
 「アイツは俺だけが父さんに可愛がられてると思って、ワザと嫉妬の花言葉の黄色い薔薇を送ってきたんだ!だから俺は花は、特に薔薇は嫌いなんだ!」
そんな言いがかりに近い事を言われても、花は花でしかないし、それ以上でもそれ以下でもない。
せめて共に鑑賞くらいはしたい。
 「……せめてさ、蕾の間だけでも一緒に花を見ないか?俺はそうしたい」
 非常に珍しい、アキラからのおねだり。
これにはリンも抵抗する気をなくしたらしい。
 「……解ったよ。ただし、蕾の時だけだからね?」
そう念を押すリン。
アキラは今度は逆にずっと咲かなければいいのに、なんて勝手な事を思うのだった。


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 2015年 1月8日 莊野りず

 ネタがなかなか浮かばなくて苦労しました。
リンは花とか植物ってどう思ってるんだろうと考えながら書いてたら、いつの間にか嫌いという事になってました。
 碌に話の流れを考えないで書くとこうなるといういい例ですね。
 次からはもっと練ろうと思います。



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