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8、波打ち際(アキリン・大人リン)


「いい眺めだねー!この時期に来るのも好きだなー俺!」
 「そうだな。人が少なくていい」
 二人は今、海に来ている。
バイトの休みを多めに取ったためだ。
 先月は安月給でよく働いたと二人の上司は褒めてくれて、たまには休みも必要だと喜んで送り出してくれたのである。
 「少し寒いけど、ここでヤるのも悪くなくない?」
 「やめろ。お前はもう少し羞恥心というものを身につけるべきだ」
アキラとしてはごくまっとうな事を言っているつもりなのに、リンはすぐにへそを曲げる。
こういう所は大人になっても変わらない。
いや、大人になった分厄介か。
しかしこの時点でのアキラは知らない。
この後、こんな事など本当に些細な事だという事を身をもって知る羽目になるのだから。


 「ひゃあ!」
リンはバイトでためた金で買った新しいデジカメで写真を撮るのに夢中だ。
 元々趣味だし、被写体が非日常的なものだから、リンのテンションが上がるのも納得だと思う。
しかしリンのように夢中になれる趣味など特にないアキラは、せっかくの海だというのに素直にはしゃげない。
 仕方なしにその辺をぶらぶら歩いてみる。
 綺麗な形や色の貝殻が落ちているのは見ていて楽しい。
 流石に持ち帰るような趣味はないが。
そうやってぶらぶらしていると、かなり高所にある防波堤に源泉と同じくらいの年頃のオヤジが立っているのが見えた。
 「?」
 何をしているのかなど、もちろんアキラには解らない。
ただ嫌な予感がする。
それも特大の。
 「リン!一緒に来てくれ!」
 波打ち際で写真撮影に夢中だったリンは趣味を中断させられて不服そうだが、こっちにも事情がある。
 「なぁ、あのオッサンはあんなところで何をしようとしえるんだろう?」
 「……そりゃあ、自殺とか?」
リンは曇りなき眼で言った。
 「やっぱりか!」
アキラは大急ぎで防波堤を登り、中年男の元へ急いだ。
もう、身体が傾きかけている。
アキラはそれを必死で元に戻そうとする。
 「なっ、何なんだお前は!私はこれから死ぬんだ!邪魔をするな!」
 「バカ言うな!俺らは楽しみに来てるんだぞ!?アンタみたいなのにここで死なれたら後味が悪いだろ!」
 互いに意地の張り合い、せめぎ合い。
 「リン!このオッサンをどうにかしてくれ!」
アキラが大声でリンに助けを求めても、いまいち乗り気ではないらしい。
 「えー?なんで俺がそんな冴えない見知らぬオッサンを助けなきゃいけないの?」
 「いいから来い!」
 「もーしょうがないなー」
リンはいかにも適当と言った歩き方でこちらに来た。
 「で、何があったワケ?話くらいは聞いてあげるよ」
 突然現れた金髪碧眼の美形に、中年は面食らった。
だが、すぐに年長者の顔に戻る。
 「お前のような若造に解ってたまるものか!」
 「あー、奥さんと上手くいってないんだね。あと円形脱毛症も発病中、ストレスが多そうな顔だし中間管理職が嫌になったとか?」
ズバズバとモノを言うリンに、気が気でないアキラ。
この繊細で面倒くさい中年は自殺志願者なのだから、もう少し優しい言い方をしろ、と目で言ってみる。
 「ううっ!なぜそこまで詳しい?しかも若くて美形なんて……死んでやる!」
 「おいおいおい!」
アキラは止めるが、リンはどこ吹く風。
 「ああ、飛び込みの瞬間の写真くらいは撮ったげるよ」
むしろ自殺の後押しさえしている。
これには中年も怯んだが、やはり意志は固いらしい。
 「本当に飛び込むからな!」
とは言っても、一向に飛び込む気配がない。
やがて中年は抵抗をやめて、その場にしゃがみこんだ。


 「で、結局どうしてあんな真似したワケ?」
リンがこの時期にもかかわらずかき氷を食べながら話し出す。
 「それなりの訳はあるんだよね?」
 中年は委縮し、小声で言った。
 「……妻は浮気をしているし、実は私もなんだ。しかも私の場合は男同士……許されない恋なんだ」
 「中年のオッサンが悲恋に酔うほどみっともないもんはないね」
リンはきっぱり言い切った。
 中年はリンを睨みつける。
 「お前みたいな美形に何が解る?どうせ女にモテモテで、人生楽してんだろ?」
 「いやー俺もホモだから。女相手には、つーかアキラ以外には勃たないから」
リンの一言で中年が固まる。
 「……今、なんと言った?」
 「だから、俺だってホモで、女相手じゃ勃たないって言ったの」
リンのこの言葉が彼に勇気を与えたらしい。
 「同性愛はいつか一般的になると思うかね?」
 「うーん。すぐには難しいだろうね。でも俺は後悔も恥も何もないよ」
リンのシンプルな返答に中年は礼を言って、かき氷は奢らせてくれと言って店を出て行った。


 翌朝、新聞の一面に大物政治家の写真と共に昨日の中年の写真が載っていた。
 「『本当は秘書ではなく愛人』……へぇ、あのオッサン、こんな大物と」
やるじゃん、とリンは笑う。
 本文には同性愛者への偏見をなくしていきたいと書かれていた。
 是非そうしてもらいたいとアキラは朝食を食べながら思うのだった。


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 2015年 1月9日 莊野りず

中年でホモが原因で自殺+アキリンがその場にいた、らどうなるかと思って書いたものです。
 『波打ち際』ってお題なのに、ほとんど関係ないし。
 日興連側には海はありますよね、多分。
 書き手的にはギャグのつもりです、これでも。



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