「いちにーいっちにー」
狭いアパートの中で、テレビに向かってストレッチをする長身の男。
しかもそれがかつて細くて小さかった少年なら、違和感は倍増だ。
「……お前、何してんだ?」
やや引き気味にアキラが尋ねると、その男は笑って言った。
「決まってるじゃん。ストレッチ」


【ストレッチ】


リンがストレッチを始めたのはいつからだろうか。
確か一か月前、それとも三か月前?
アキラもバイトで忙しいから、そんな細かい事など一々覚えていられない。
リンはどんなに疲れて帰ってきても、ストレッチだけは欠かさない。
帰って来て、夕食を食べて、シャワーを浴びて、寝る前にはストレッチ。
朝も余裕があれば「いちにーさんしー」だ。
昔のリンならば微笑ましく見れたのかもしれない。
しかし成長しきった今のリンがやっているのは少し奇妙に映る。
そんなアキラの心境も知らず、リンは毎日ストレッチ。


ある、二人ともバイトが休みの日、ある意味で二人の愛情を確かめ合える日に、あえて訊いてみた。
「何でそんなに夢中になってやるんだ?無理すると身体壊すし……」
心底不思議だったアキラに対し、リンはあっけらかんと言い放つ。
「だって、身体が柔らかい方がプレイの幅も広がるじゃん?そういや最近ヤってないよね。どう?」
どう?もなにも、今は真っ昼間だ。
綺麗な顔をして言う事は昔と変わらない事にある意味で感心した。
今にものしかかってきそうなリンに「今日はやめとく」としか返事が出来ない自分は、かなり弱くなったな。
そんな事をぼんやりと思うアキラだった。




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2015年 1月2日 莊野りず

予想をかなり裏切る、一分もしないで読めちゃうアキリンでした。
お題がお題なだけに、私の貧相な想像力ではこれが限界。
まぁ、サクッと読めるテキストサイト的にはこれで正解かもしれな



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