パージュ居城。
この城の主は『スクィーズ』という力によって、生命力を吸い取ってしまう。
これが制限できるものなら便利なのだが、厄介な事に周りにいるもの全てのそれを吸い取る。
魔王ジーナローズが復活した今、彼女のそばにいるアンジェラも危ないのだ。


【魔界だって七夕】


「ジーナローズ様!ご復活おめでとうございます!」
魔王城の謁見の間ではジーナローズの復活記念パーティが執り行われている。
その部屋の片隅で、パージュは己の身体に力が満ちてくるのを感じていた。
先程の戦闘中に負った怪我もあっという間に治っていく。
駄目だね、こりゃ。
溜め息をつく。
そこにランがーがワインを持って寄ってきた。
「どうした、パージュ。アンジェラはどうした?」
「アンジェラ?あの子ならここに……」
いつものように脚に抱きついているのかと思ったが、アンジェラがいない。
「なんてこった!」
慌ててパージュはアンジェラを探しに大広間を駆け回りだした。
「……」
一人残されたランガーは手にしたワインを持て余していた。


「姉さん、大丈夫か?顔色が悪い」
血の気が引いたような顔色のジーナローズはレイジに支えられ、やっと立っているようだ。
「大丈夫。久しぶりに皆に魔力を与えるようになったから疲れただけよ」
「でも本当に辛そうですよ?もう休まれては?」
ギルヴァイスもそう進める。
ヴィディアはこの場にはいない。
「姉さん、オレが部屋まで送るから。休んだほうがいい」
レイジはジーナローズの手をとると背中に手を回す。
そしてギルヴァイスに、この場は任せたと目で合図を送ると大広間を後にした。
ギルヴァイスは部下を数名呼ぶと部屋の片付けを命じた。
そこにパージュが息を切らせてやって来た。
「パージュ様、どうかされました?」
「……アン、アンジェラが、いないんだよ」
「え?」
それはまずい。
今は魔界中の悪魔が人間たちへの怒りで燃えている。
人間軍の兵でもあれだけ恨まれているし、ギルヴァイス自身も人間は好きではない。
出来る限り人間を殺さないでいるのはジーナローズの願いを優先する幼馴染の命令だからだ。
ギルヴァイスにとってアンジェラは正直いてもいなくてもいい存在だが、パージュにとっては違う。
ジーナローズを復活させる事が出来たのもパージュの力に頼ったところも大きい。
「知らないかい?あの子が行きそうなところ、どこかないかい?」
パージュは必死だ。
ギルヴァイスは部下を呼び戻し、アンジェラを探すよう命じた。


ジーナローズの私室に足を踏み入れると、青臭い植物の匂いがした。
緑色をした小さな木らしきものが備え付けの広口の花瓶に立てられている。
その葉が小さく揺れた。
「姉さん、なんだアレ?魔界では見たことがないが」
「ああ、あれは笹といってね。人間界の植物よ。侍女が活けておいてくれたのね」
嬉しそうにジーナローズは微笑んだ。
そして不思議そうに笹を見た。
「ねぇレイジ。今動かなかった?」
レイジは頷いて、花瓶のほうに近寄る。
花瓶の陰から幼い少女が顔を出した。
「アンジェラじゃないか。迷ったのか?パージュは――」
「なんて可愛い子!」
レイジの声と被るようにジーナローズが声を出した。
傍により、テーブルの上からチョコレート菓子を少女に渡す。
少女は嬉しそうにチョコ菓子を食べ始める。
うっとりと少女を見つめるジーナローズに、声をかけるタイミングを逸したレイジが困っているとドアをノックする音が鳴った。
「すみませんジーナローズ様。こちらに人間の子供が来ていませんか?」
ギルヴァイスの声だった。
「ああ、ギル。パージュが困ってるだろ。アンジェラならここにいるぞ」
「良かった……」
パージュの声がドア越しに聞こえた。
彼女もアンジェラを探していたらしい。
「姉さん、その子はパージュの子だよ」
「まあ、パージュの。二人とも入ってらっしゃい。七夕パーティでもしましょう」
レイジもパージュも『七夕』という単語にクエッションマークを浮かべた。
部屋に二人が入ってくると、ジーナローズは紙を何枚か切って、それを全員に渡した。
「今日は七夕といって、その短冊に願い事を書いて、この笹に吊るすの。そうすると願いが叶うと言われているの」
アンジェラがこくんと頷く。
全員が書き終えて、笹に吊るした。
それぞれの願いはとてもわかりやすかった。
だが誰も突っ込みはしなかった。
こうして魔界の夜は更けていく。

















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2012年 7月7日 荘野りず

えらく久しぶりなジェネラルじゃないレイジ。
それぞれの願い事は言うまでもない。
ギルは『レイジがパシリ扱いするのを止めさせて』とか。

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