アベルとレアのクリスマス



教団にインセストを探しに行く。
アベルの身体――器を保つためには、インセストの犠牲なしには成り立たない。
たまにこんな身体は嫌になるが、あくまでアベルという存在は現在のカインの元の人格であり、カインを殺すのがアベルの至上命題だ。
『たまに』どころか常に嫌になるが、アベルという存在がこの世にいるためにはその目的を果たすしかない。
因果な存在だ。
そう自嘲したくもなる。
教会はクリスマスモード一色で、天使も僧兵もだれている。
悪魔の姿をとっているアベルには、クリスマスなど関係がない。
天使と悪魔というものは常に敵対するものだ。
だが、この日は教団の警備が予想以上に凝っていて、インセストの収穫はなかった。
舌打ちしつつ、アベルは黒き翼を広げた。


「おかえりなさい、アベル様」
幽葬の地下通路に戻ると、レアがすっかりご機嫌だった。
幼いインセストたちも、同様に。
「なにかあったのか?」
「だって、もうすぐクリスマスじゃないですか」
またクリスマス。
十二月といえばクリスマスしかないのかと、アベルはすっかり食傷気味だ。
街を歩くだけでもサンタの格好をした大人の男がケーキを売っていたっけ。
「クリスマス当日には張り切ってご馳走を作るんです。みんなも手伝ってくれるって――」
「くだらない」
アベルが云い捨てた。
「神を信じる者の祭りだろ?俺は生憎と神なんか信じない。おまえたちだけで好きにしろ」
「……アベル様」
なにか言いたそうなレアを残して、アベルは奥へと進む。
そこがアベルの部屋のような場所だった。
なにがクリスマスだ。
ただ騒いでいればいいだろ、好きな奴だけで。
そんなことを考えていると、逆さになったアラギが顔を出した。
「うわあ」
「へへへ、やっぱおまえはガキだよ」
アラギはすぐに元の体勢に戻った。
「……なにが言いたい?」
「べっつにい?嬢ちゃんが準備してるのは誰のためだと思ってんのかなあ、なんて」
「ガキどものためだろ?もう出て行けよ」
アラギが自分のショールを見せびらかした。
よく見ると、それは今までのものとは違って新しい。
「……まさか」
「勘がいいな。嬢ちゃんが夜も寝ないで編んでくれたんだよ。おまえの分もあるんだろうな。……クリスマスプレゼントだとよ」
「レアが、おまえに?」
「日頃世話になってるからって言ってたぜ?嬢ちゃんは律儀だねぇ」
シニカルに笑うアラギを置いて、アベルはレアのいる場所へ急ぐ。
そこでレアは手編みのマフラーや手袋をプレゼントしていた。
アベルは息を切らしながら、彼女のもとによる。
「レア」
「アベル様?」
「前言撤回だ。俺は神は信じないが、おまえは信じる」
その言葉がレアにとってはかなり効いた様で、彼女は笑顔でマフラーを差し出した。
アベルの瞳の色と同じ、赤いマフラー。
それを身に着けて、アベルは問う。
「似合うか?」
レアはただ微笑んだ。
料理の支度も万全。
クリスマスパーティは始まったばかり。


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2016年 12月23日 莊野りず

ブラマト久しぶりです。
もうネタがないという、困った状況です。
これからどうしよう。





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