魔王城の屋根が吹き飛んだ。
何も覆い隠すものがなくなった天井から風が入ってくる。
その風は血の臭いも乗せてきた。
その強い臭いに、ジーナローズは顔をしかめる。
光の差さない暗い魔界がますます陰鬱としていると、彼女には思えた。


【その翼は朱に染まり】


ジーナローズが魔王城で放心している頃、レイジは魔界中を回り、悪魔たちの命を奪っていた。
次々とレイジに向かてくる者たち。
次々とレイジに斬られる者たち。
残った者は戦う意思のない者や弱者であると自分で認める者たち。
カルテットも必死に応戦しようとしたが、力を取り戻し、心が暴走したレイジの前では無力だった。
パージュは最期までアンジェラを守ろうと必死だった。
その意気に免じて、今、アンジェラは魔王城でジーナローズと共に、レイジの帰りを待っている。
そう、帰りを待っているのだ。
朱に染まった翼に構うことなく、レイジは次々に殺戮を冒していく。
不思議と今までの罪悪感というものは全くなかった。
むしろすっきりした心地だ。
――心地いい。
無心で剣を振るうことがこれほど気持ちのいいものだとは思わなかった。
人間軍の相手をする時も、ジーナローズの記憶がある限りは、殺せない制約のようなものがあった。
それのない今、レイジは完全に自由だ。
死体の山が続々と出来ていくが、後始末の事など考えない。
今のレイジの体内には魔力が満ちている。


「……ひっく、ひっく」
ジーナローズは目の前の人間の少女が泣くのをただ黙って見ていた。
少女を慰めようともしない。
一度も声を発することのなかった少女は、母親を亡くした途端に泣き出した。
――思ったより高い声で泣くのね。
そんな事をぼんやり思った。
今まで少女が見せた顔は、きょとんとした顔と微笑んだ顔。
それだけしか知らない。
だから泣き顔は新鮮に思えた。
アンジェラは命が尽きたパージュの骸に駆け寄ろうとして、途中で転ぶ。
その足取りはふらふらとしていておぼつかない。
それでも諦めずにパージュの元へとゆっくり、一歩一歩近づく。
一時間ほどかけて、アンジェラはパージュの亡骸にたどり着いた。
まだ体温がわずかに残っているらしく、アンジェラは再び泣いた。
不思議な事にあれだけ愛おしいと思っていた人間がここまで可哀想な想いをしているというのに、ジーナローズの心には何も響かない。
レイジと同時に心が壊れてしまったかのようだ。
いや、実際に壊れているのだろう。
「ただいま、姉さん」 朱に染まった翼の男――レイジが帰ってきた。
「おかえりなさい」
ジーナローズは感情の籠らない声で応える。
そのバックミュージックは少女の泣き声。
これからレイジがアンジェラをどうするのか、ジーナローズは訊こうとして、急に眠気に襲われた。
次に目を開けた時には、少女はもういなかった。









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2014年 11月28日 莊野りず

ジーナローズルートをさらに救いのない感じにしてみました。
最近のマイブームがイヤミス小説なせいか、実に後味が悪くなりました。
書いてる方は楽しいけれど、読み手としてはどうだろう。
色々微妙なので手直しする時間があれば直します。



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