幼い頃、夢中で花を摘んだ。
花冠を作ったり、花束にしたり、ドライフラワーを作ったり。
その中でもわたしが一番熱中したのは花占いだった。


【水面に散った花】


朝食の支度を整えると、わたしは幽葬の地下通路を抜けて地上に出る。
最初は怖かったこの地下通路も、アベル様と行動を共にするようになってからは地理がつかめてきた。
一番地上に近い道を通り、光の差す方へと向かう。
朝の地上の空気はおいしくてそれだけでわたしは嬉しくなる。
地下にばかりいては淀んだ空気に体が慣れてしまうと思い、最近のわたしはこうして朝の太陽の光を浴びる。
「あ」
足元には名も知らぬ小さな花が咲いていた。
わたしは危うくそれを踏みつぶすところだった。
「ごめんなさい」
花にそう謝りつつ、わたしはその花を摘む。
この辺りには花など咲かないと思っていたのに。
意外とたくましい花なのかもしれない。
この一帯には湖と木々がある。
けれど花は一度も見賭けたことがなかった。
わたしは幼い頃を思い出して花びらを引っ張る。
花占いだ。
内容は何を占おうかと逡巡した結果、アベル様がわたしをどう思っているかにすることにする。
たかが花占い。
されど花占い。
わたしはドキドキしながら湖の傍によって花びらを水面に落としていく。
――好き、嫌い、好き、嫌い、好き、嫌い……。
花びらの多い花だ。
ゆっくりやっても一分とかからない占いのはずなのに、五分は経過している。
「……好き、嫌い、好き」
最後の一枚は、『好き』だった。
わたしはほっと胸を撫で下ろす。
「よかッた……!」
たかが花占いとはいえ、わたしは幼い頃からこの占いの結果が当たることを知っていた。
原理は解らないけれど、わたしが花占いで占ったことはたいてい当たる。
わたしがインセストであることと何か関係があるのかもしれない。
とにかくアベル様がわたしの事を好きだという結果で、わたしは大いに満足した。


「今日はやけに機嫌がいいな」
アベル様は朝食のムニエルを口にしながらわたしに尋ねた。
自分では気づかないうちに頬が緩んでいるのかもしれない。
「そうですか。いつもと変わりありませんよ?」
動揺を悟られまいとわたしはいつも通りに応える。
「何かいいことでもあったようだな」
やっぱりアベル様にはお見通し。
わたしは観念して今朝の花占いの話をした。
アベル様は案の定、「くだらない」と一喝。
でも機嫌を悪くした様子はない。
わたしが後片付けをしていると、アベル様が何でもないことの様に言う。
「外に出てみるか」
それはアベル様との外出のお誘い。
わたしは一にも二もなく頷く。


外に出ると今朝の湖を通る事になった。
「あっ!」
今朝の花占いに使った花の残骸が湖に浮いていた。
水面に散った花は元通りになろうとしているようにわたしには思えた。
「花に悪い事をしてしまいました……」
わたしがしゅんとすると、アベル様はつまらなそうに、「花はいつか散るものだ」と呟いた。
それがわたしを励ましてくれているようで、その優しさに改めてアベル様が好きになるのでした。








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2014年 6月20日 莊野りず

アベレアでほのぼの。
私も幼い頃にはよく花占いをしてたんですが、全然当たりませんでした(笑)。
レアの占いが当たるのは彼女がインセストだから、という事で。
アベルは迷信は信じなさそうだけど、レアがどうしてもって言ったら信じるかもしれない(うちのアベルなら、ですが)。



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