どうしてもそばにいたいんです。
アベル様はわたしを助けてくれたから。
例え振り向いてもらえなくても構わない。
だってわたしの幸せは彼と共にあるのだから。


【無償奉仕】


「嬢ちゃん、またアイツは荒れたのか?」
夜遅くに帰ってきたアラギ様の身体からはアルコールの匂いがする。
きっと今日もどこかで飲んできたのだろう。
インセスト探しはアベル様がお一人で行っている。
「……大したことはありません。慣れましたから」
そっと腕に手を添える。
まだ痛みはあるものの、大したものではない。
「そうか。嬢ちゃんも大変だな」
どこか他人事のように、でも少しの同情をこめて、アラギ様はわたしを見た。
その目は、「今日は腕か」と言っているようだった。
それっきりアラギ様は黙り込む。
わたしも余計な事は言わない。
アベル様は確かに怒ると怖いけれど、普段は優しいという事をわたしは誰よりも知っているつもりだ。
きっと今日はわたしが余計な事を言ったのだろう。
「では、わたしは明日がありますから」
そうアラギ様に告げて、わたしは自分の寝床へと移動した。
……アベル様はまだ帰らない。


あの日からアベル様は滅多に帰らなくなった。
インセスト探しはわたしが思っている以上に大変らしい。
することのないわたしは食器を磨いていた。
そこへアラギ様がアベル様を抱えて帰ってきた。
あのアベル様がアラギ様に抱えられて返ってくるという時点で、アベル様の調子が芳しくないことはわたしにも解る。
「アベル様!」
わたしはインセストとしての力を開放する。
するとたちまち開いていたアベル様の傷口が閉じていく。
「あ」
わたしは立ちくらみを起こし、アラギ様の力強い腕に支えられる。
「大丈夫か、嬢ちゃん」
「だ、大丈夫、です」
その時ちらりと見たアベル様の顔色は真っ青だった。
「それよりアベル様は?」
ああ、とアアラギ様は頷く。
「教団の天使どもに見つかってな。相当な深手を負わされたらしい」
「なんでそんな事に……!」
わたしは悲しくなる。
そんな危険な場所なら私も連れて行ってくれるのなら、怪我をしたその場で傷を塞いで差し上げられるのに。
「だが、インセストの収穫はあったらしい。どっかの島に隠してきたってよ」
「そう、ですか」
きっとアベル様はアラギ様に腹を立てるに違いない。
人のお世話になるのを嫌う方だから。
「なぁ嬢ちゃん。なんでお前みたいないい奴がこんな奴仁無償奉仕なんてするんだ?」
アラギ様は今更なことを訊いてきた。
わたしは胸を張って答える。
「それはもちろん、わたしの幸せはアベル様と共にあるからです」
暴力を振るわれても、それでもアベル様の幸せを願うわたしは変なのだろうか。
アラギ様はそれ以上何も言わなかった。









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2014年 8月7日 莊野りず

いつもとは毛色の違うアベレアでした。
アベルは暴力を振るっていた頃のカインのペインキラーだし、その名残があってもおかしくはないんじゃないかと思って少しその描写を入れてみました。
いつもと違うと言えばアラギもです。どういうわけかレアに優しい。
アベルがおかしい分アラギでバランスをとってみました。



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