昔、今よりもずっと昔の事。
私は天上に神はいるとずっと信じてきた。
光溢れる展開に住む彼をとても羨ましく思っていた。
私はずっとこのくらい魔界の中だというのにと、彼に嫉妬を覚えたこともあった。
それでも私は『プロジェクト・マトリクス』に賛成した。
……賛成してしまった。
その結果生まれたのはヒト。
神に似せしものという意味のヒト。
彼はヒトをまがい物、役立たずだと言ったけれども、私はこのヒトに愛着を持った。
それも当たり前のことだった。
誰が自分の生んだ子をそんな風に貶められて黙っていられるだろう。
それ以来、私は彼とは連絡を絶った。
それが悲劇の始まりだったかもしれないのに。


【天上に神はいるか】


レイジの必死さについ私は復活する道を選んでしまった。
これが正しい道なのかは私にもよく解らない。
とにかく頭が痛くてくらくらする。
立ちくらみを起こしそうになったところをレイジに抱き留められた。
逞しいその腕に、私はレイジの成長を見た。
昔は慎重も私と変わりなかったレイジも今では頭一つ分は私よりも高い。
「……ありがとう、レイジ」
私がお礼を言うとレイジは照れ臭そうに笑った。
その様子を一部始終見ていたヴィディアが複雑な顔をしている。
――大丈夫よ。私とレイジは姉弟なんだから。
私はそう目配せをする。
それでもヴィディアの不安は消えないらしい。
「お前、ジーナローズ様ご復活の記念日にそんな顔するな」
ギルヴァイスがそうヴィディアを叱りつける。
「姉さん、少し休んだらどうだ?部屋まで送るよ」
「……ええ。お願いするわ」

あの日の夢を見そうで不安だったけれども、レイジがしばらく見ていてくれるのならば安心できるかもしれない。
私は藁にも縋る想いで頼んだ。


私の部屋はしばらく部屋の主が留守にしていたとは思えないほど片付いていた。
おそらく侍従の中に気の付くものがいたのだろう。
「本当に大丈夫か?顔色が真っ青だぞ?」
レイジは深刻そうに私の顔を覗き込む。
「大丈夫よ、多分」
私がそう言うと、噛みつくように、困ったようにレイジが返答に困る。
「多分って何だよ……」
こんなところは以前からあった。
レイジは悪魔の将軍として兵たちを鍛える傍らで、私の事をいつも心配そうに見ていた。
それが恋のまなざしだと気づいたのはいつの頃か。
でも今は素直に心配してくれるのが嬉しかった。
「レイジ、しばらくここにいてくれない?嫌な夢を見そうなの」
レイジは2つ返事で頷いた。
――よかった、これで魘されることはなさそうだ。
私はベッドに横になり、疲れのせいかあっという間に眠りについた。


『魔王ジーナローズ、覚悟!』
甲冑に身を包んだ人間が私の胸を貫く。,br> その瞬間、何とも形容しがたい甘美が私を襲う。
今まで味わったことのない喜び。
人間と、自分の子供と触れ合えた悦び。
『ああ、私の愛しい……子供たち』
私は思わずそう零していた。
その後、レイジが謁見の間に踏み込んできて、大乱戦となった。
『やめて!人間を殺さないで!』
私の必死の訴えに、レイジは血の涙を流した。,br> 弟として可哀想な事をしたと思う。
けれど姉弟という関係と親子という関係では、どうしても自分の子供を優先するものではないか?
私がそう疑問に思ったところであの甘美な夢は去って行った。


「姉さん!……本当に大丈夫か?」
「ええ、私は大丈夫」
玉汗が浮いている。
あの時の時間を出来ることなら取り戻したい。
けれど私の口を突いて出たのは全く違う言葉だった。
「レイジは天上に神はいると思う?」
「神?いきなりどうしたんだ?」
「いいから、答えて!」
思わずきつい口調になってしまった。
レイジは困ったように考え込み、しばらくはそのままだった。
やがてゆっくりと口を開いた。
「神っていうのは偶像なんじゃないのか?人間どもにも神を信じているやつが多いが、神ってそもそもそんなに凄いのか?」
レイジは神の事には懐疑的だった。
私は今はレイジの意見に同感だ。
なぜあの時神を作ろうとしたのか、その理由さえ思い出せない。
「そうね、神は偶像なのかもしれない。それでも縋りたくなるのよ。特に力を持たない人間はね」
私はやはり人間の母だ。
彼らの気持ちが解ってしまうのだから。
レイジはそれ以上追及してこなかったが、何かを言いたそうに部屋を後にした。
――果して、天上に神はいるのか。
それは神のみぞ知る。









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2014年 月日 莊野りず

一人称が書きやすくて癖になって書いたものです。
微妙にレイジナ?あとメルジナ?書いてる方もわかんない。
このお題を見て最初に思いついたのがこの話です。
難しいことはよく解らないけど、とりあえず一言。 ジーナローズ様は決してMじゃない!



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