――消えてしまいたい。
――死んでしまいたい。
けれど、それが叶わないのが憎らしいこの身体。


【消滅願望】


あの時。
あの時、人間たちが城に攻め込んできてくれた時は本当に嬉しかった。
今でもあの時の衝撃は忘れられない。
ずっと憎まれてきた。
愛する者に憎まれ続けるという無限の地獄。
それがとうとう終わったのかと、ジーナローズは狂喜の悲鳴を出しそうになった。
それほどまでに衝撃的だったのだ。
自分を憎んでいるはずの人間たちが、わざわざゲートを通って魔界にやってきた。
それだけでジーナローズを悦ばせるのには十分だった。
それなのに彼らは魔王城までやってきてくれた。
何と嬉しい事。
ジーナローズはこれまで生きてきた中でこれ以上の喜びを知らなかった。
ずっと魔界の事ばかりを考え、統治していくだけの日々。,br> つまらない、何の喜びもない日々。
それが今日で終わるとなると嬉しくて仕方がなかった。
だから出来ることなら何でもしようと思った。
例えば知恵が欲しいのならいくらでも与える。
それが例え魔界の崩壊を招こうとも。
力が欲しいのならいくらでも与えよう。
自分のこの身を切り裂いて力をつければいい。
命だって惜しくはない。
むしろこの世から消滅することがジーナローズの望みだった。
悪魔たちは当たり前のようにジーナローズの与える魔力で人間を殺す。
愛する人間たちが仲間である悪魔たちに殺されるのが我慢ならなかった。
それを嬉しそうに報告する悪魔たちが内心憎かった。
いっそ自分など存在しなければこんな事など起こりはしないのに。
そう考えた時、ジーナローズの消滅願望はどんどん大きくなった。


それでもジーナローズはレイジの手を取ってしまった。
人間たちに愛されないと、憎まれると解っていてもその手を取らずにはいられなかった。
それほどまでにあの時のレイジは真摯だった。
ジーナローズは人間がメルディエズに利用されているだけだと必死で説得した。
元々人間に肩入れしすぎる彼女だが、今回は利用されている人間たちが哀れになったのだろう。
仲間たちはメルディエズを倒すと言ってくれた。
ジーナローズはそれを聞いて安心した。
――これであの子たちが利用されることはなくなるわ。
彼女は胸を撫で下ろした。


天界に向かうゲート前には大量の人間軍の姿があった。
「レイジ!殺しては……」
「解ってる」
ジーナローズの望みを弟は解っているようで、彼女はほっとした。
しかし魂砕きの槍、スピリッツブレイカーを見た時、レイジの顔色が変わった。
それは同時にジーナローズもだった。
――あれに貫かれればもう二度と愛されない苦しみを味わわなくて済むの?
そう考えた時にジーナローズの精神が蕩けた。
「では……私から殺しなさい」
思わず唇がそんな事を口走っていた。
「言われなくともっ!」
リィディエールは好戦的に笑った。
そしてレイジたちの目の前で、数歩先に歩いたジーナローズの肩を貫いた。
貫かれたところからは魔力が奪われている気がした。
彼女なら自分の消滅願望を満たしてくれるかもしれない。
ジーナローズはそう期待してまた数歩近づく。
レイジたちは慌てて追ってきたが、そんなものはお構いなしだ。
今度は足元を貫かれる。
心地よい痛みが酩酊感に似た何かを感じさせた。
やがてレイジたちと人間軍の戦いが始まった。
しかしジーナローズは思う。
――お願いだからそっとしておいて。私に構わないで。
今度は胸元を貫かれる。
流石にこれは我慢できる類の痛みではなかった。
「うぅっ……」
少しだけ自分を殺してくれる人間の顔を見上げる。
――ああ、この子は私と見た目が似ているかもしれないわ。
自分と似たものに殺されるのもも悪くない。
そんな事を考えているうちに、やがて意識は遠くなり、命が尽きた。
ジーナローズの消滅願望は、やっと今、満たされた。









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2014年 6月28日 莊野りず

ジーナローズ死亡ルート。カップリングは特にありません。
ジーナローズ姉さんが抱いていたのってこういう感じかなーとゆるく考えながら書いてみました。
自分から殺しなさいっていうくらいの人だし、消滅願望くらいは胸に秘めてそう。
かといってMではないですよと釈明しておきます(笑)。



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