その日、パージュは上機嫌だった。
大天使長メルディエズを倒したことで、天使と人間とのつながりも希薄になり、結果として魔界は平和になった。
レイジが再びジーナローズの精神世界に赴き、人間と争う事は当面ないと告げると彼女は復活した。
人間という不確定要素は残ったものの、魔界はひとまず平和になった。
まだ戦いが続いている所もあるが、そこはジェネラルであるレイジが何とかするであろうと楽観視していた。
パージュはというと、当然アンジェラは引取り、ランガーを城に住ませることにした。
侍従たちは最初こそ当惑した様子だったが慣れというものは早いものだ。
やがてパージュとランガーはそういう関係であると魔界中で噂される事になった。
パージュは細かいことには頓着しないたちなので何を言われても気にしない。
愛するアンジェラとランガーと三人でいる時間は心地よい。
また魔王城に遊びに来いというジーナローズの申し出はありがたかった。
さて、ここでアンジェラ。
彼女は相変わらず一言も言葉を発することはなかった。
ランガーはそれを訝しんだ。
子持ちだったランガーには娘がいて、それをメルディエズに殺されてしまった。
その愛娘はアンジェラより少し年上なだけだったが、言葉を操っていた。
それなのにアンジェラは一言も言葉を発しない。
これは何か問題があるのではないかとパージュに相談したこともあるが、相手にされなかった。
もはやパージュはジーナローズと同等かそれ以上のお親ばかになっていたのだった。


【マイ・リトル・プリンセス】


パージュの居城では侍従たちが毎日のように走り回っている。
「パージュ様、新しい衣服が届きました」
「そう。誰からだい?」
パージュは送り主が誰だか知った上で訊いた。
「ジーナローズ様からです」
それを聞いてパージュの頬がほころぶ。
――ジーナローズ様が復活して本当に良かった。
そう思わずにはいられない。
復活したばかりの彼女はアンジェラを一目見るなり虜になった。
まるであの日のパージュのように。
「困ったことや悩みがあったらいつでも城にいらっしゃい。アンジェラを連れて、ね」
嬉しそうに頬を上気させて熱っぽく言ったのだった。
ジーナローズがいる限り、いつスクィーズが発動しても安心というものだ。
こんな風に他人を気遣った事など一度もなかった。
スクィーズの力のせいでいつも孤独だったのだ。
その厄介な力がなくなって人間軍との戦いにも苦戦するようになったのは皮肉もいいところだ。
そんな事をパージュが考え込んでいると、服の袖を軽く引っ張られた。
そちらに視線を移すことなくパージュはそれが誰だか解っていた。
「ああ、ごめんよ。そろそろ昼だね」
悪魔には食事をとる習慣はない。
そういう風にできている。
しかし人間であるアンジェラとランガーはそうはいかない。
「……」
アンジェラがパージュを見つめる。
その無垢な瞳に何度救われてきたことか。
パージュは思わずアンジェラを抱きしめた。


侍女が用意した食事には幼児向けの柔らかいものと大人向けの苦みや辛みの強いものが出された。>br> いつもこの侍女が食事を用意するのだが、毎回趣向を凝らしてあるので飽きない。
パージュはただワイングラスを傾ける。
「ところでいつジーナローズ様のところに行こうか」
パージュがそう切り出す。
いつも服をもらってばかりでは気が引ける。
それに自慢の愛娘を見せびらかしたいという気持ちもあった。
「ゆっくりでいいんじゃないか」
「……」
アンジェラが折角の高級ドレスにおかずを零す。
「あらら……。アンジェラはまだまだあたしがついていないとダメなんだねぇ」
そう言いつつもパージュはアンジェラの世話が出来ることに満足そうだ。
それを見てランガーはため息をつく。
――パージュは自分だけのマイ・リトル・プリンセスを見つけてご満悦、か。
呆れつつも羨ましいとランガーは思うのだった。





kl


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2014年 10月11日 莊野りず

このお題を見て「これはパージュとアンジェラの話にしよう」と決めていました。
ジーナローズ様は種族ごとの親ばかだけどパージュはアンジェラのみの親ばかだよね、という話でした。
ランガー×パージュ要素も少し入れられて満足です。ランパー万歳!



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