――もう付き合ってはいられない!
彼は城を飛び出した。
彼が十三の頃から仕えてきた城主は、イカレた趣味の持ち主だった。
――これならばまだ変人と噂されるフォレスター様の方がマシだ。
とりあえず今の主人にはお暇をくださいと言って出てきた。
幸い脳内がお子様の彼はそれをあっさり了承した。
――もう二度と彼の城には戻らない!
彼の決意は固かった。


【お暇をください】


「それで、お前はなにができるというんだ?」
眼鏡越しの冷たい目線が容赦なく彼を差す。
彼は冷や汗をだらだらと流しながら、自分の特技を話そうと口を開こうとする。
「ええっと、とりあえず裁縫が出来ます。あと料理と洗濯も」
恐る恐る彼が口に出すと、フォレスターは興味深そうに彼を見た。
「ほう。裁縫、掃除、洗濯か……。悪くはないな」
――やった!第一印象はバッチリだ!
彼は内心でほくそ笑む。
このままフォレスターに雇ってもらえれば、あの城には戻らなくて済む。
一応、もっと自分の利用価値を知ってもらおう。
「それと機械いじりとか、興味があります」
彼のその一言で、フォレスターは片眉を上げた。
「……機械いじり、だと?」
彼としてはイモータル・フォースのフォレスターの機嫌を取るつもりだった。
それがなぜか雰囲気がよくない。
彼は再び冷や汗をかく。
「はい。前の主人がよく機会を壊すので、よく修理していました。時計とか」
だが彼の思惑と異なり、フォレスターの機嫌は悪くなるばかりだった。
「……私のオートマタ―が時計と同列だと?」
今更になって彼は自分の失言に気づく。
しかし時すでに遅し。
「出て行け」
フォレスターは静かに告げた。


「それで、アンタは何が出来るんだい?」
肉感的な美女はその大きな、視線に困る胸元を隠しもせずに訊いてきた。
「えっと、裁縫と、掃除洗濯、料理なんかも……」
ふーんとパージュは気のない返事をした。
正直、ここに進んで努めようとは思わない。
自分の意思とは関係なく発動してしまう、厄介な力・スクィーズ。
彼は以前、この力に巻き込まれて死んだ同胞の姿を知っている。
出来れば外回りの警護を任せてほしかったのだが、ユーニの城では翼に羽根を縫い合わせる仕事を専門にやっていた彼には難しい注文だ。
「あたしも家事は苦手だしねぇ。まぁ一週間、試しに雇ってみようか」
――やった!
彼は小躍りした。
ようやくユーニのような暴君から逃れられる。
その喜びが彼の気を大きくした。
翌日の彼の仕事は完璧で、パージュの機嫌もよかった。
だが、細かいところでミスをしてしまった。
「ちょっと!アンジェラの服のシミが落ちてないじゃないか!何やってんだい!」
正確には選択した後にアンジェラがおかずを零して出来たシミなのだが、そんな事はパージュは知らない。
即刻首を言い渡された。


パージュの城で少なからずスクィーズの力で生命を搾り取られ、ふらふらしつつも、魔王城にたどり着いた。
彼は未だに懲りてない。
「……雇ってほしいんです」
そう涙ながらに訴えると、ジーナローズはすぐに受け入れてくれた。
――やっぱりジーナローズ様は優しいなぁ。
じーんと感じ入っていると、そこに魔王の弟君、レイジが現れた。
「……見ない顔だな」
「今日から雇っていただいたのです」
そう言って彼は胸を張る。
その片手にはジーナローズの洗濯物があった。
それをレイジが見逃すはずもなく……。
「貴様!それは姉上の物だろう!どうする気だ、この変態!」
「ええーっ!」
紙一重のところで斬られずには済んだが、また勤め先を失った。


「すみません。また雇ってください」
もう二度と足を踏み入れることもないと思っていたユーニの城に戻ると、意外にもユーニは彼の帰還を喜んでくれた。
「待ってたよ!やっぱり羽根の修繕はキミじゃないとね!」
そう無邪気な笑顔を見せるユーニに、彼は自分の運命を悟るのだった。









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2014年 6月13日 莊野りず
『彼』はもちろんオリキャラです。たまにはこんなのも気晴らしにはいいかと思って書いてみました。
自分的にはギャグのつもりなんですが、実際はどうなんでしょう?
とりあえずカルテットに仕えるには並大抵の覚悟じゃ勤まらないという事です。



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