悪魔や天使にとっては翼は急所で大事な部分。
翼を失ってはいくら悪魔や天使でも生き残れない。
だから当然、みんなは翼を守りたい。
あの悪魔の中の悪魔『フェザサイド・ユーニ』の手から。


【寝言】


「申し上げます。フェザサイド・ユーニ様が単独で出陣されました!」
ユーニの動向を逐一報告してくる部下を思わず振り返る。
「なんだと……?ユーニの奴、まだ狩り足りないのか!?」
大天使長メルディエズと、レイジのライバルで剛の天使の異名をとるエルラザク両名が消滅した今、魔界は人間界との和平交渉を進めている。
戦いの中でレイジはジーナローズを復活させることが出来なかったが、この和平が成れば彼女が復活を拒否する理由もなくなる。
そんな訳で、カルテットのメンバーとヴィディアやギルヴァイス、更にはその部下と、みんなに徹底させていることがあった。
『絶対に争わないこと。理由があろうと、これを破った者はジェネラルの剣が待っている』とレイジは演説で告げていた。
悪魔たちは戦いを終わらせたレイジたちを英雄だと湛え、敬った。
その後カルテットの面々はそれぞれの居城に戻ったが、レイジだけは臨時の魔王代理という事で、今も魔王城に滞在している。
平和への道は一歩一歩、確実に進んでいる……はずだった。
ユーニが我慢できずに天使の羽根をもぎに天界へと気軽に向かうようになったのだ。
天使とは和解も進めていないし、不安定なこの時期に展開とやり合うのは避けたい。
それが例え楽に勝てる戦いだとしても。
「っ〜!ユーニの奴ッ!?」
「で、どうすんだ、大将?」
今日はデスクワーク担当のギルヴァイスが軽口を叩く。
レイジはしばし考え込んだのち、ギルヴァイスの顔を見上げた。
「……悪魔にも被害が出ないとも限らない。仕方がないが、ユーニの城に行く」
その言葉でギルヴァイスは怯む。
「……ま・さ・か、オレにもついて来いっていうんじゃあないですよね?」
「ジェネラルの外出だぞ?腹心の部下なら当然同行するだろう?」
この言葉にギルヴァイスはぐうの音も出なかった。
「……イザって時は頼みますよ、ホント」


「すまないが、ユーニに取り次いでもらえるか?」
ユーニの城はいつ来ても緑が豊富だ。
城の主である彼がいつも城を空けているせいで樹木の新書奥は進みっぱなし。
当然いつもふらりとどこかに出かける彼の事だからろくな手入れもしない。
レイジとギルヴァイスが二人だけで来たのはきっと何か裏があると、ユーニに使える女悪魔は思ったようだが、違う。
ギルヴァイスには当然言っていないが、レイジは彼の翼を好きに触っていい代わりに無駄な殺戮をやめるよう説得に来たのだ。
「……はっ、はい、只今!」
レイジとギルヴァイスの整った顔だちにうっとりしていたもう一人の女悪魔は慌てて主を呼びに行った。
しばらく待つこと数十分。
「はぁ!?オレを人質にするってのかよ!?」
レイジが考えていた作戦を説明すると、予想通りの反応を示した。
それすなわち『絶対に嫌だ』。
「……一悪魔と魔界に住む悪魔全員の命。お前だったらどっちをとる?」
「……うっ!卑怯だぞ!」
「悪魔だからな、どうせ」
そんなやり取りをしている間に、そそっかしそうな先ほどの侍女が戻ってきた。
彼女は口元に人差し指をかざす。
「……ユーニ様はお休みになっておられます。寝顔だけでも見て行かれませんか?とても可愛らしいです」
ユーニの事は彼女の口実合わせだったが、レイジとギルヴァイスはユーニの寝顔など見たことがない。
思わず興味を惹かれた。
「じゃあ、少し」
レイジがそう告げると彼女はこちらです、と広間からすぐの部屋に彼らを案内した。
「うわっ!」
「……流石にこれだけ揃うと壮観だな」
ユーニは大量の白と黒の羽根の真ん中で眠っていた。
寝具などはなく、ただ羽根の柔らかさを愉しむためにしつらえたとしか思えなかった。
レイジたちの気配に気づいたのか、ユーニは寝返りを打った。
その寝顔だけなら大変愛らしい……そんな事を思っていたが。
「……ギルヴァイスぅ、ホントにその羽根……ボクに、くれるのぉ……?」
「あげませんよッ!」
ユーニの寝言にうっかりツッコミを入れるギルヴァイス。
もちろんユーニを起こさぬよう、小声だ。
「本当にもう……このお方はこれさえなければ仲良くできそうなカルテットなのに」
珍しいギルヴァイスの愚痴に、レイジはただ頷いた。








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2014年 12月2日 莊野りず

拍手お礼にある『あったかいのがおいしい』ネタをもってきました。
珍しくユーニでほのぼのです。元々の性格がアレなので、なかなかほのぼのになりません。どなたかどうにかしてください!(笑)
ヴィディアがいないのは彼女がいるとツッコミが多すぎるためです。



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