――ふぅ。
さっきから何度もついた、溜め息。
まただ。
少女のような顔立ちの少年がまっすぐにこちらを見ている。
――ふぅ。早く帰ってきてください、レイジさん。
少年は突然爪を尖らせた。
「ひいっ!」
サファエルはこの時だけは魔界に来たことを後悔する。
――やっぱりお兄様の言うことを聞いておけばよかった。


【溜め息、何回ついた?】


「ねぇ。ゲームしようよ」
ユーニがそんな事を言いだしたのが今から一時間前。
「ゲーム?」
サファエルは訝しげに聞き返す。
「そう、ゲーム。レイジが用事でいない、この退屈な時間にどちらが多く溜め息をつくかってゲーム」
予想していたよりもずっと穏やかなゲームの内容にサファエルは安心した。
「いいですよ」
退屈で仕方がなかった。
この程度のゲームなら受けても構わないだろう。
「……言っておくけど、多く溜め息をついた方が負けだから」
「はいはい」
微笑ましいことを言う悪魔だとサファエルが思っていると、ユーニはとんでもないことを口走った。
「負けた方は勝った方に羽根を自由にさせるって事で」
「はいは……え?」
にっこりとユーニが笑う。
――しまった!この子がそんな穏やかなゲームを持ち出すわけがなかった!
何と言ってもカルテットのフェザサイド・ユーニ。
こうなることは予想できたはずなのにと、サファエルは自分の判断をミスを呪う。
「じゃあ、始め!」
ユーニの弾むような声が部屋に響いた。


――大丈夫、相手は子供。子供はつまらないと思えばすぐに溜め息をつくはず。
しかし予想に反してユーニは全くつまらなそうな素振りを見せない。
それどころか目を輝かせている。
これにはさすがのサファエルも不審に思った。
――なんでユーニさんは平気なの?
対するサファエルは暇で暇で仕方がなくて、今にも溜め息をつきそうだ。
「気になるの?ボクがどうしてこんなに楽しそうにしてるのか?」
見透かされていた。
見た目が子供だからといって油断してしまったのか。
「ボクはいつでもコレクションの事を考えてるから、溜め息なんてつかないよ」
「はぁ」
「はい、一回目。ボクはゼロ回。楽勝だね」
ユーニは楽しげに笑う。
その視線の先にはサファエルの白い翼があった。
ぞくっと寒気を感じて目を逸らすも、ユーニの視線が追ってきてそれも叶わない。
――ぅぅぅ……レイジさぁん!
それからのサファエルは緊張の糸がピンと張った。


「あら、ユーニ様とサファエルったら」
ヴィディアが微笑む。
レイジは何事かと振り返る。
そこにあったのはぐっすりと昼寝をする二人の姿。
「……意外だな。このねーちゃんも肝が据わってるって事か?」
ギルヴァイスがからかうように言う。
「ふふ……こうして見るとユーニ様もまだまだ子供ね」
嬉しそうにそういうヴィディアにはこの一時間の攻防など知る由もない。
「このまま寝かせておくか」
レイジの提案に二人とも頷く。
しかし、サファエルが目覚めた時には地獄ともいえるあの時間が再び待っているのだった。







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2014年 6月28日 莊野りず

たまにはユーニとサファエルのほのぼの(?)を、と思って書いてみました。
ほのぼのなのかは怪しいけど、ゲームのユーニ居城でのバトル時の会話が面白かったのでネタにしてみました。
そろそろユーニメインの話を書いてみたいところです。



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