『ほら、レア。レモンキャンデーだ。美味しいだろう』
幼いレアを引き取った義父が買ってくれたレモンキャンデーは初めて味わうものだった。
『うん、美味しい!』
もっと、とせがむレア。
微笑む義父。
『ほらほら、レア。そんなに一気に食べると虫歯になるよ』
義母はレモンキャンデーを口に含むレアにそう注意する。
『いいもん。わたし、これが気に入ったの。また買ってくれる?』
『もちろんいいとも。お前はうちの子なのだから』
義父が微笑む。
いつまでも続けばいいと思っていたあの時間。
それも長くは続かなかった。


【初めての味】


「では、豚肉と牛肉、あとは羊の肉をください」
「はいよ」
天気のいい日だった。
こういう日は外に出るに限る。
レアはここ数日の雨で買い物に出られなかった。
窓の外には雲一つない青空。
しばらく雨が降る事はないと思うが、買い溜めていてもあの二人はよく食べる。
だったら安い日に買っておくに越したことはない。
代金を払おうとして、レジの傍にレモンキャンデーの袋が陳列してあることに気づいた。
「これはどうしたんですか?前はなかったですよね?」
奇しくもそのパッケージのデザインは義父が買ってくれていたものと一切変わりはなかった。
「ああ、それかい。肉を食べると口臭が気になるって客が多くてね。せめてもの気休め、ってとこかな」
「そうですか」
レアはしばらく迷った末にレモンキャンデーの袋を二つ追加した。


今日はしゃぶしゃぶにでもしようかと準備を整えていると、アベルが帰ってきた。
「お帰りなさい、アベル様」
「……」
アベルは何も答えない。,br> 恐らく今日もインセスト探しは上手くいかなかったのだろう。
何と声をかけていいものか逡巡していると、アベルの方から声をかけてきた。
「お前、今日は何か甘い匂いがする」
「甘い匂い、ですか?」
今用意しているのはしゃぶしゃぶだ。
とてもじゃないが甘い匂いとは違う。
――あ。
そこでレアは気がついた。
「わたしの舐めているキャンデーの匂いかもしれないです。レモンキャンデー」
するとアベルはレアのすぐ目の前に移動した。
距離としては一センチくらいしか離れていない。
「あ、あの……アベル様?」
「じっとしていろ」
アベルの唇がレアのものと触れる。
舌が入ってくるのが解る。
―――ひゃっ!
ころんと飴玉が転がる。
「……これがレモンキャンデーか。初めての味だな。甘くて少し酸っぱい」
アベルは正直な感想を口にした。
「え?」
先ほどのキスはレアからキャンデーを奪うためのものだったのだ。
「なんだ?キョトンとして」
アベルはいつまで経ってもアベルだ。,br> そんな彼のブレなさにレアは何も言えなかった。









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2014年 7月10日 莊野りず

やっと数センチ前進したアベレアです。
思えばこの二人のキス話ってこれが初めてな気がする。
いつもは初心なアベルが好きですが、興味を持った時は大胆なアベルも好きです。



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