――飢えが止まらない、どうしようもないくらい。
――喉が渇く。堪らなく。
ルカはこの飢えと渇きに苛まれて、ここ数日ろくに眠っていない。


【飢えと渇き】


最初にルカの変化に気づいたのはカインだった。
「どうしたのルカ?顔色が悪いよ」
「なんでもない」
普段はおっとりしている癖に、こういう時は目ざとい。
ルカがはぐらかそうとしてもカインは後をついてくる。
「何でもないなんて顔色じゃないよ。お医者さんに診てもらおう?」
そんな呑気な言い草に思わず笑う。
「どこに好き好んで悪魔なんかの身体を診ようなんて医者がいるのよ!」
「……だけど」
カインが言いよどんだのを皮切りに、ルカは大笑いする。
「やっぱりおかしいですよ。ルカさん、やはりお医者様に……」
いつの間にかそこにいたシリアにも同じ事を言われた。
「ああ、もう!煩い!」
ルカはイライラしたように外へ出て行ってしまった。


その頃、ザイオンはアラギと対峙していた。
「ルカの適合者、それはあのリリスとかいうチビだ」
「?!」
アラギはその顔が見たかったとばかりに笑いをかみ殺す。
ザイオンの顔が真っ青になる。
――リリスが、ルカの適合者?
にわかには信じがたい話だった。
だが、ルカの事でアラギが嘘をつくとは思えなかった。
アラギは少なからずルカを想っていることは知っている。
――ルカのためにリリスを……。
ザイオンの頭の中ではルカとリリスの顔が交互に浮かぶ。
「まぁルカが死んだらお前のせいだな」
それだけ言ってアラギは去って行った。
残されたザイオンはどうしていいのか解らずに呆然とするしかなかった。


――ルカの顔色が日に日に悪くなっていく。
カインは何も出来ない、知らない自分に腹が立った。
――ザイオンは何をしてるんだ!
やがてカインは何も出来ない自分の無力をザイオンへと転嫁した。
そうすることしか出来なかった。
「ねぇ、ルカの症状って渇きじゃないの?」
スティエンがひそひそ声でカインに呟く。
「渇き……?」
「悪魔特有の病よ。やがて血に狂うの」
「それじゃあルカは……」
そこへザイオンがやってきた。
「……つまらない事を喋るな。ルカの症状は渇きなんかじゃない」
「でも……」
食い下がるスティエン。
それをはねのけるザイオン。
一触即発だった。
そこへルカが現れた。
「アタシが血に狂ってるって?ならあんたたちがアタシを殺せばいいでしょ」
何でもないことの様にルカは言う。
悪魔への不信に溢れていた仲間たちは迷いながらもルカを部屋に閉じ込めた。
渇きに狂った悪魔とはいられない。
それがほとんどの仲間の見解だった。
やがてルカは飢えと渇きに狂って死んだ。
ザイオンは何も出来なかった自分の無力を呪った。
それでもルカの死に顔は安らかなものだった。
きっとリリスを殺さずに済んでよかったと思っていたのではないだろうか。








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2014年 6月27日 莊野りず

ルカバッドエンド捏造。
一度広がった不審ってそう簡単には拭えないと思うんですよね。個人的にバッドエンドは好きなもので捏造しちゃいました。
飢えと渇きを我慢できるルカの精神力は凄いと思います。



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