ヴィディアはレイジの事が大好きで、レイジはジーナローズの事が大好きだ。
そこにヴィディアをそっと見守るギルヴァイスが加わった時、恋模様は多角形になる。
いびつな四角形だけど想いはきっと純粋なはずだ。


【多角形の恋愛模様】

その日、ジーナローズが私室から出るとレイジが待ち伏せしていた
朝から、しかも白い薔薇の花束を抱えている。
「……一体どうしたのレイジ」
レイジは照れ臭そうに笑う。
「いや別に特に用ってわけじゃないけど、朝一番に庭に出て見たらこれが咲いてたんだ。だから侍女に頼んで花束にしてもらった」
姉さんには赤より白だろ?と、屈託なく笑う。
「そう。ありがとうレイジ。私も白薔薇は特に好きだわ。穢れなき純粋さ……とでもいうのかしら?そういうのがあるような気がして」
「受け取ってくれるか?」
「もちろん。でもこのままだとすぐに枯れてしまうから、花瓶に活けておくわ」
ジーナローズはこの弟の想いが重いと常々思っているが、もちろん口には出さない。
折角うまくいっている姉弟仲をそんな形で崩したくはない。
それに素直に好意は嬉しい。
「じゃあ俺は兵の訓練があるから!」
そう言ってレイジは走り去っていく。
ジーナローズは花束の重みに苦笑した。


中庭には兵の訓練所がある。
レイジやヴィディアが中心となって志願してきた兵を鍛える。
基本的に志願兵は弱い。
悪魔なのに人間二、三人に手こずるほどに。
それを大幅に強く鍛え上げるのがこの魔王城での平時のレイジとヴィディアの主な仕事だ。
レイジが中庭に着いた時、すでにヴィディアがいた。
レイジやギルヴァイスと一緒にいる時の少女じみた彼女の姿はどこにも見られない。
怒号を上げ、撃剣の見本を示している。
レイジはヴィディアの肩に手を置いた。
彼女は気配でそれがレイジのものだと解っていたらしく、嬉しそうに振り向く。
「レイジ!今日は遅かったのね。何かあったの?」
「姉さんに薔薇の花束を届けてきたんだ。喜んでたよ」
「……そう」
ヴィディアの声がワントーン下がる。
「やはり姉さんには白薔薇だな。誰が植えたんだかわからないけど、いい仕事したもんだ」
「え?……白薔薇ってまさか城の角に植えてあったやつ?」
「そうだけど?何かあるのか?」
その白薔薇はヴィディアが願掛けをして植えていたものだった。
花を咲かせるのが難しいとされる薔薇の花が咲いたらレイジに想いを告白しようと思っていた。
当然、毎日熱心に世話をしていた。
今朝咲いたばかりで、いつ告白しようかとそわそわしたが、結局朝早くにレイジの部屋に行く
それがこんな結果になろうとは。
恋敵である――と言っても勝手にヴィディアがそう思っているだけだが――ジーナローズに届けられたとなるとショックも大きい。
黙り込んだヴィディアをレイジは不振げに見つめる。
「……何でもないの。ホント、何でもないから!」
ヴィディアはそう答えるのが精いっぱいだった。


昼頃になってギルヴァイスが中庭にやってきた。
「よ、お二人さん。仕事は順調か?」
彼は書類が入っていると思われる封筒を何通かわきに抱えて訓練中のレイジとヴィディアにそう声をかける。
「ギルが来たって事はもう昼時か。そっちの仕事は順調か?」
質問を質問で返すのはいつもの事だった。
「オレは順調だな。部下たちもよく働いてくれてるし」
ギルヴァイスの仕事は主に情報収集やその処理だ。
上の判断が必要なものとギルヴァイスが判断していいものとに分けて判断していいものに関しては彼自身が処理を行う。
デスクワークなため肩こりがひどいというのが彼の口癖だ。
「こっちはいまいちだな。今回のはハズレだ。鍛えようがないくらい弱い」
「へーそりゃ大変なこって。……ヴィディア?どうした?」
元気のないヴィディアが心配になったのかギルヴァイスが声をかける。
「ヴィディアの奴、何かショックな出来事があったらしくてこの調子なんだ。ギルに思い当たる節はないか?」> ギルヴァイスは常々自分の気持ちを隠してヴィディアの相談相手になってきた。
だから白薔薇の事だと見当がついた。
もちろんその白薔薇をレイジがジーナローズに送ってしまったことまでは解らなかったが。
「さあな。おーいヴィディア!飯だぞ」
気のない様子で指導するヴィディアの耳には届いているはずなのに返事がない。
――こりゃ大ごとだな。
ギルヴァイスはヴィディアと恋人になりたいとは思っていない。
ただこの三人で幼馴染としてずっと共に過ごしたい、それだけだ。

多角形の恋愛模様は今日も複雑に歪に絡み合う。br>






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2014年 6月8日 莊野りず

いやー書いていた楽しかった!一方通行な片思いとかはよく書くんですが、多角形となると書く機会もそうはなくて。
想いのベクトル的には小さい順からギルヴァイス→ヴィディア→レイジ→ジ-ナローズです、言うまでも
ヴィディアも相当レイジの事は好きだとは思うけれど、どうしてもレイジのジーナローズへの想いには負けなどないと思っちゃいます。
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