ヴィディアが死んだ。
突然の事で頭の整理が追いつかない。
――嘘、だろ?
ギルヴァイス自身、それが嘘ではないという事は悟っていた。
しかし自分に問いかけるしかなかった。
だってあまりにも現実離れしている。
女傑と言われたヴィディア。
キリング・ダストのヴィディア。
そして……幼馴染のヴィディア。
リィディエールの持つスピリッツ・ブレイカーでその胸を貫かれたヴィディアは、そのままレイジの胸の中で息絶えた。
最期の顔には喜びや幸福感が一杯だった。
――お前にそんなしおらしい顔なんて似合わないだろ?
ギルヴァイスがそう心の中で呟いても、ヴィディアの魂は粉々に砕かれてしまった。
もう二度と復活することもない。


【孤高の王様】


レイジは泣いた。
涙が枯れるだけ泣いた。
魔王城から人間を全て追い出し、城にいた人間は容赦なく殺した。
そんな事ではレイジの怒りも悲しみも収まらない。
今やレイジの心を占めるのは愛したヴィディアではなく、人間たちへの圧倒的な憎しみだった。
ギルヴァイスが城の謁見の間の魔王だけが座るイスに腰掛けたレイジの顔を見た時には、狂気を感じるほかなかった。
「そこにいるんだろう?出て来いギル」
ちらりとのぞき込んだだけなのに見つかってしまった。
渋々出ていくと、レイジは焦点の合わない目でギルヴァイスを見上げた。
「……早く人間どもを殺し尽さないとな」
その声にぞっとした。
以前の、ヴィディアと恋人同士になる前のレイジはジーナローズこそが世界の全てだった。
そのジーナローズの説得に失敗した心の傷を埋めたのが他でもないヴィディアだった。


「思えば、ずっと陰から支えていてくれたんだよな」
ヴィディアが殺される前、まだ人間との戦いが激化する前は、ファレク湖でそんな事を言っていた。
「姉さんみたいになろうとして髪を伸ばしてたなんて、可愛いところもあるよな」
そう照れながら、好青年の笑みを浮かべていた。
「俺のことを心から心配してくれるのはヴィディアだけだ」
元々愛に飢えていたレイジだ。
魔王城でのヴィディアの告白が上手くいって、二人の幼馴染であるギルヴァイスは心から祝福した。


それなのに運命とは残酷だ。
「レイジ、愛して……る」
その一言を最期に残してヴィディアは死んだ。
あっけなく。
そこからレイジがおかしくなっていった。
天界に攻め込み、魔界に平和をもたらしたのは間違いなくレイジだ。
レイジだったはずだった。
彼は天使たちとの戦いで疲弊した兵を率いて人間界へと向かった。
目的は一人残らず人間を滅び尽す事。
レイジはただ殺すだけではなく、拷問も好んで行った。
他の悪魔にも同じことを強いて、従わない者は片っ端から切り捨てた。
魔界から悪魔が減っていく。
それでもレイジは人間虐殺をやめない。
やがて人間という種族は完全に滅んだ。
それでもレイジは満たされない。
今度は悪魔を殺し始めた。
楽しみ半分に行う拷問は日を追って惨たらしくなってゆく。
ギルヴァイスにはレイジを止めるすべがなかった。
魔界も次第に興廃してゆく。
「貴様が最後の一人か!」
レイジは剣を胸元に勢いよくたたき込む。
「満足……か?」
――お前を止めるにはこうするしかないんだ。他でもない、このオレが。
レイジが斬ったのはギルヴァイスだった。
魔界に残っていた悪魔はレイジを除けば、もうギルヴァイスしかいなかった。
「……ギル?」
やっと瞳に力が戻ったようだった。
――残念なのはお前を一人残して死ななきゃならないって事だな。
「ギル!ギル!死ぬなギル!……お前が死んだら、俺は……俺は!」
魔王の血族には死などない。
復活を続け死ぬこともできない。
孤高の王様と化したレイジはこれからの孤独を想像するだけで、耐えられない思いに苛まれた。








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2014年 7月6日 莊野りず

たまにはギルルートで。
暗いのは仕様です。いつもこれ言ってる気がする。
孤高って、「気高いけど寂しい」という意味だと何かの本で読んだので、この話にちょうどいいかと思って書いてみました。
レイジは結構気高いと思うんだけどいかがでしょう?



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