アラギに拾われた時。
尤もアベルはそうは思ってはいないが。
ただ利用しがいのある男を見つけたというくらいである。
近場の飲み屋に無理やり連れて行かれ、そこでこんな話題になった。
「恋と愛ってどう違うと思う?」
なんてアラギが質問してきたのだ。
まだ少年であり、恋もしたこともないアベルには答えようがなかった。
そのまま黙りこんでいるとアラギは愉快そうに笑った。
「お前は強いのにこの手に話となるとてんで駄目だな。もっと男を磨けよ」
そう言ってアラギはアベルの肩を強く叩く。
アベルは酒臭いこんなところに連れてきた上に、こんなつまらない話を聞かされてどうしてやろうかと真剣に考えた。
「まぁ、お前も大人になれば解るだろうよ」
そう上から目線で言うアラギには腹が立って仕方がなかった。
しかしアベルには反論の言葉がなかった。


【恋と愛】


レアと出会ったのはそれから一か月ほどした頃だった。
インセストを強奪しようと教会を襲った時に、僧兵に連れられて出てきたのがこのレアだった。
「……本当にインセストか?」
「本当だとも!この娘こそ神の見えざる手を持つインセストだ!」
僧兵はそう主張した。
正直、無駄な戦いは体力を消耗するのでご免だった。
しかしこの僧兵の言葉を信じて連れ帰って『偽物でした』では話にならない。
黙りこくっているアベルに僧兵はとんでもないことを言いだした。
「信用できないのなら服を脱がそうか?」
僧兵の下種な物言いにアベルは反発を覚えた。 そんな事をしなくとも自分にはインセストかどうかくらい簡単に解る。
「い、いや!」
少女は服を脱がそうとする僧兵たちに必死で抵抗した。
それでも非力な少女と鍛えられている僧兵とでは腕力が違いすぎる。
「やめろ!オレが直接確かめる」
この下劣な連中に乱暴されては、ただでさえ消耗しているインセストの精神に傷をつけかねない。
――俺の質問に答えろ。
アベルはそう声をかけた。
蒼い瞳の少女は驚いたように俯いていた顔を上げた。
――貴方は何者なんですか?インセストとは思えませんが……。
翼の色から悪魔だという事くらいは解るだろうに、少女はぼかした言い方をした。
――お前はインセストか?
――はい。背中の羽根の付け根に当たるところに痣があります。
どうやら少女は調子を持ち直したようだ。
インセストの中には僧兵に乱暴されて死ぬものも少なくない。
この少女はそれに比べればマシだった。 「よし、インセストだな。連れて行くぞ」
アベルがそう言って、レアの背中に腕を回した。
これは二人でっ跳ぶ時のためにだ、他意はない。
なのに腕の中の少女は顔を真っ赤にしている。
だが、その隙を突いて僧兵たちが飛び道具で二人を狙う。
思わずレアを庇ったアベルは肩を軽く負傷した。


「珍しいなぁ!お前がそんなへまするなんて」
アラギの揶揄する声にアベルは眉をひそめる。
「……煩い」
少女はレアと名乗り、教団の実験施設から救ってくれたことに対する礼を何度も言った。
アベルにとってはいずれ自分のために利用する命だ、礼を言われる覚えはない。
彼女は医療の心得も多少あるようで、肩の傷の応急手当てをしてくれた。
その瞳があまりにも純粋なので黙って手当を受け入れた。
患部を見せろと言われた時に戸惑ってしまったのは彼女の瞳の意志に押されたのか。
そこまで考えてアベルは笑う。
――まさか、な。
以前アラギが言っていた恋と愛の違い。
このアベルという名の少年はそれを悟ろうとしている。
恋は一方通行のもの、愛は――。
再び考え直そうとして、やめた。
今はあくまで力を与えるものと与えられるものの関係でいたい。
恋だの愛だのなど邪魔なだけだ。
しかしアベルの心はレアの笑顔を見るたびに憎しみが溶けていくようだった。










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2014年 月日 莊野りず

アベレアで恋と愛です。あの年頃の少年って恋と愛の違いについては解らないんじゃないかと思ってたらこんな話になりました。
以前のサイトではレイジナで攻略したものです。でも今となってはアベレアの方が書きやすい。
レイジナ版も読みたいというリクエストなどありましたら、お気軽にどうぞ。書ける限りで書いてみます。



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