目が見えないという事は常に危機と隣り合わせ。
視力を補う人形と、ルビエル様の片目の視力をお借りしている。
表面上では強がっていても本当は怖い。
まるで割れた硝子の上を歩くようで。


【割れた硝子の上を歩く】


リプサリスがルビエルに拾われたのはもう十数年前。
みんなの前では厳しい上司と真面目な部下という態度だが、実際はそうでもない。
疑似親子――この言葉が最も適当な気がする。
事実、リプサリスはルビエルを育ての親でもあると思っている。
照れもあるのか彼女は他者の前ではリプサリスを『傑作』と称している。
――ルビエル様ったら。
もちろんリプサリスも褒められれば嬉しい。
特にそれがルビエルに、ならば尚更だ。
――もっとルビエル様のお役に立ちたい。
それが偽りなきリプサリスの本音だった。


「リプサリス様、本当に見えないんですか?」
無遠慮にそう訊いてくるのは僧兵スティエン。
彼女はヒトの中ではかなり強い部類に入るだろう。
師匠のクレイスを除けばだが。
彼女には全く悪気はなく、ただ興味本位で訊いているだけなのだろう。
インセストのように他者の気持ちを共感する能力はなくても、それくらいの事は経験で解る。
リプサリスは苦笑する。
「ええ、本当に見えないんです」
そういえば以前にも同じ質問をルビエルがいる場でしてきた僧兵がいた。
彼は今はどうしているのだろうか。
噂ではルビエルに消されたとも聞くが、あの冷静なルビエルがそんな真似をするとは思えない。
それでも気になって訊いてみたことがあった。
『ルビエル様、例の彼の姿が見当たりませんが?』
背中を向けたままルビエルは無機質な声で言った。
『例の彼、とは?』
その声には深入りは許さない、という無言の圧力があった。
リプサリスがそれに逆らえるわけもなかった。
あの時から、それ以上は追及しようとは思わない。
いつの間にかリプサリスの視力の事は教団内でも禁句になっていた。


――最初は視力を持たない自分を呪ったこともあった。
――だけど、そのおかげでルビエル様と出会えた。
――だからわたしはこの身が呪わしいなどとは二度と思わない。
例え割れた硝子の上を歩くようにしか前に進めないとしても、リプサリスにはルビエルがいる。
その事実だけでリプサリスの世界は光に満ちる。










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2014年 6月30日 莊野りず

リプサリス主人公の話でした。
そう言えば教団サイドは全然書いてないなと思いつつ、教団側で一番好きな法天使コンビにスポットを当ててみました。
ルビエルの片目の視力をリプサリスに与えている、という設定は今はなき公式サイトで見たはず。記憶が怪しいけれど。
疑似親子もいいものです。



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