「で、オッサンはなんて呼べばいい?」
ギルヴァイスが軽口を叩くと、筋肉質の男は名をランガーと名乗った。


【サニーデイズ】


パージュに会いに行こうという事になり、レイジは彼女の居城の周りの植物が例外なく枯れていることに気づいた。
「なんで枯れたままで放置なんだ?カルテットの一人なら召使の一人や二人はいるだろう?」
そんな記憶喪失の証拠としか言いようのない無知な質問にはギルヴァイスが答えた。
「パージュ様の能力『スクィーズ』のせいだ。あのお方は周りにいる者の生命を全て吸い取ってしまうんだ」
そんな恐ろしい悪魔がいるとは、この時のレイジは大いに驚いた。
「じゃあそのリーダー格の俺ってもっと凄かったのか?」
「凄いなんてものじゃないわよ」
ヴィディアがなぜか誇らしげに口を挟む。
「ジェネラル・テンペストと言えば、魔界で最も逸れられる『血の雨を降らせる暴風雨』よ?あなたが通った後には死体しか残んないんだから!」
記憶がないとはいえ、自分がそれほど恐ろしい悪魔だったとは。
レイジが思わず閉口すると、居城付近から騒がしい声や物音が聞こえて来た。
「なっ、なんだ?」
「パージュ様の居城の方だ!」
「急ぎましょ!もしかしたらパージュ様も人間たちに……」
一行はパージュの居城内部へと急いだ。


そこには人間相手に苦戦する肉感的な美女が片腕に傷を負っていた。
頭からも微妙に出血している。
「パージュ様!なぜスクィーズを……」
ギルヴァイスが疑問に思っていると、ヴィディアが思い至る。
「そうだ、きっとパージュ様も魔力がなくなってるからスクィーズが使えないんだわ!」
要は大ピンチ、絶体絶命。
「早く助けに……」
飛び出そうとしたレイジをギルヴァイスが制す。
「待てよ。なんか変だぜ人間の様子が」
そう言われてみると、なぜか攻めあぐねている。
そこへ幼い翼なき少女が城の内部から出てきた。
ますます混乱する人間たち。
「何だアイツは?」
「人間の子供……?」
「いや、悪魔の罠だ!」
人間たちは少女に向けて剣を掲げた。
パージュは傷口を押さえながら少女に向かって叫ぶ。
「逃げて!アンジェラ!」
少女は微笑んだまま動かない。
「危ない!」
ヴィディアが思わず前に飛び出す。
「おい待て、パージュ様の作戦かも……」
ギルヴァイスはそう言って止めようとするが、ヴィディアの耳には届いていない。
「もう駄目だ!?」
レイジは少女が斬り殺される瞬間は見たくなくて目を閉じた。
しかし、数秒待っても悲鳴は聞こえない。
「……どうなった?」
眼前にはランガーが少女を庇って負傷している所が見えた。
元々筋肉質で頑丈なためか、ランガーの傷は少し血が出ている程度だ。
「よかったぁ」
ヴィディアも胸を撫で下ろした。
「でもなんだってあのオッサンがパージュ様を?」
ギルヴァイスは未だに彼を信用していないらしい。
「……大丈夫か?」
ランガーはパージュをも庇っている。
パージュは見知らぬ人間相手にどう振る舞っていいのか解らずに、ただ頷くだけ。
「幼子を殺そうとするなど、貴様らはそれでも人間か?天使と変わらんな!」
ランガーがそう言い放つと、人間たちは彼に狙いを絞った。
「おのれ、同じ人間の身でありながら悪魔の味方をするのか?しかも天使様まで侮辱するとは!?」
人間軍はランガーをリンチすることにしたらしい。
「……オイ、どうするよ」
ギルヴァイスがレイジに問う。
「決まってる。パージュを助けてくれたんだ、援護するぞ」
「了解!」
二人はレイジと共に正門側から乗り込んだ。
人間を斬りながら、ヴィディアは名乗りを上げる。
「パージュ様、キリング・ダストのヴィディア、援護に参りました!」
ギルヴァイスは槍を構えてヴィディアの周囲を守っている。
レイジはパージュと合流することを目標に歩みを進めていく。
ランガーもパージュを守りながら、レイジと合流しようと一騎当千の大活躍。
パージュもロッドを構え、呪文で援護する。
「覚えていろ悪魔ども!天使様のご加護は我々にのみある!」
そんな捨て台詞を残し、人間たちは撤退した。


「助かったよ。アンタたちがいなかったらこの子を守れなかった」
パージュは先ほどの人間の少女をみんなに見せた。
「……人間、の子供?ただの人間か?」
初めて見るものを見たようにヴィディアは目を瞬かせる。
「そう、アンジェラってんだ。可愛いだろ?」
流石にカルテットの一人には軽口は叩けないヴィディアとギルヴァイスはアンジェラの頭を撫でたり、握手したりしている。
そんな中、パージュがレイジにランガーについて尋ねた。
「ジェネラル、アイツは何者だい?見たところ人間みたいだけど……あんなに強いわけがないし」
「俺も詳しくは知らないんだ。名前はランガーっていうらしい。それしか知らない」
レイジの返事に、パージュは少しがっかりしたようだった。


ジーナローズを復活させるためにまずは魔王城を奪還することが必須だ。
人海戦術が使えないため、レイジたちは魔界中を歩く羽目になった。
パージュの城もその時に再び訪れた。
「あたしの城なんてワインくらいしか価値のあるものはないよ?」
なんて、まるで自分の城に愛着がない様子のパージュだったが、アンジェラとの思い出の地だというレイジの言葉に奪還を決めた。
その日の夜、パージュは私室にランガーを招いてワインを飲んでいた。
「……アンタ、天使に何かされたんだろ?」
軽く酔ったパージュがランガーに話しかける。
ランガーは仏頂面で次々にワインを開けている。
「アンジェラを助けてくれたことと何か関係があるんじゃないの?」
「!?」
「……図星かい?コイツは言いたくない事もペラペラしゃべっちまう魔法の水なのさ。明日になればあたしもアンタも今日の事は忘れてる」
ワイングラスを傾けながら、パージュはランガーに詰め寄る。
ランガーは観念したようにグラス一杯入っているワインを飲みほした。
「私には娘がいた。たった一人しかいない愛娘だ。私は当時天使を神の使いだと信じていた……」
全く愚かしい事だと付け加える。
「ある日、私と娘の前に、大天使長メルディエズが姿を現した。敬遠な信者だった私は祈りをささげた。娘もそうした。だが奴は……」
「奴は?」
パージュが相槌を打つ。
「翼に触れたというだけで娘を殺した。一瞬の出来事で、私には何も出来なかった」
「……」
パージュは無言でワイングラスに液体を注ぐ。
「じゃあその娘の弔い合戦だ!今夜は飲もうじゃないか!」
レイジが見回りに来たことは二人は気づかなかった。


魔王城を奪還したものの、ジーナローズの復活は遂げられなかった。
最も彼女の復活を望んでいたパージュだがレイジでダメなら他の誰でもダメだっただろうというギルヴァイスの言葉に納得した。
魔力の供給なしでもメルディエズを倒す事は出来た。
「――、お前が守ってくれたんだな」
ランガーは娘の名を呟いた。
天使の台頭は退けられたが、人間軍はまだ天使を崇める者が多かった。
今度は人間との戦いだ。,br> 「……ランガー、お願いがあるんだ」
「何だ、パージュ。珍しいな」
パージュは少し照れて言った。
「まだ娘の事は忘れられないだろうけど……あたしとアンジェラと三人で魔界に暮らさないかい?」
パージュにとっては一世一代の告白だった。
ランガーは少し、ほんの少しの間考えて返事を返した。
「……私でいいのなら」
「アンタだからいいんだよ、バカ」
アンジェラはそんな二人の姿を見て一層深く微笑む。
魔界の曇天の空は今はすっかりサニーデイズ――晴天日だった。








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2014年 12月17日 莊野りず

いつの間にかいつも何となくくっついてるランガーとパージュの話でした。
本編で出て来た事ばかりなのは仕様です。
無理やりラストでお題に沿おうとしたのも私なりの仕様です(笑)。



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