いつもの教団、いつもの執務室、いつもの……じゃない溜め息。
ルビエルが先ほどからずっとこの調子だ。
溜まっている書類の処理も一向に進まない。
リプサリスはこの沈黙に耐えられなくて、つい声をかける。
「どうか、なさいましたか?」
ここでまた、ルビエルの溜め息。
「……法天使失格だと嗤ってくれても構わん」
何やら深刻な話の様だ。
リプサリスは心を決める。
「どうぞ、お話になってください」
「うむ。どうも私は奴が……テリオスが苦手らしい」
らしい、という言い方からすると、自分でも白か黒かはっきりしないのだろう。
白黒はっきり決める法天使・ルビエルも彼の事になると自分でもよく解らなくなるのだろう。
「……という訳で、すまないがこの書類を奴に届けてくれないか?私は他のモノを片付けておく」
「承知しました」
リプサリスはあくまで静かに執務室から出て行った。


【性格不一致】


「あははは……!天下の法天使様も苦手なものがあったんですね」
外見はリプサリスと変わらない年頃の少年はツボに入ったらしくまだ笑いが止まらない。
「……テリオス様、ルビエル様の仕事の邪魔はおやめください」
隣に控えている副官のクレイスは静かに主を宥める。
傍目から見れば、クレイスが父親でテリオスが息子に見えるだろう。
しかしそれは逆だ。
テリオスの方がクレイスの何倍も年寄り……いや、大人なのだ。
「それにしても彼女もきついなぁ。僕ほど善良な天使はそうはいないというのに。ねぇ、クレイス」
同意しかねると言った様子でクレイスはリプサリスを見た。
主人の無言の圧力に苦しんでいるのだろう。
リプサリスは彼に同情しながらも何も出来ない。 「……僕は彼女の事が大好きなだけなのになぁ……」
この言葉には真実味が感じられた。
視力がないに等しいリプサリスだからこそ解ったのだろうが、彼女はその事を誰にも言わなかった。


『十神将裁判、開廷!』
無機質な機械音が裁判の開始を告げる。
裁判官はもちろん法天使ルビエル。
今回の裁判は僧兵が新入りをいびっているという至極シンプルなものだった。
大半の予想通り、開始一時間も経たないうちに閉廷、十神将たちはそれぞれの執務室へ戻っていく。
残されたのは後片付けをしているルビエルとそんな彼女をじっと見つめるテリオスだけだ。
「……リプサリスから聞きましたよ」
テリオスは満面の笑みでルビエルの方を見つめる。
そのルビエルは処理済みの整理で忙しそうだ。
「何を?」
書類を一枚一枚チェックしながら、受け流そうとする。
「僕のどこがそんなに気に入らないんです?貴女のことが好きなのに」
「はいはい、好きだな」
もうテリオスの言葉など無視だ。
「……今好きって言いましたね?」
思わず書類を持つ手が揺れるルビエル。
腹黒い笑みに変わったテリオスの笑顔。
ルビエルは乗せられた悔しさで唇を噛む。
「……貴様のそういう事をはっきり言うところが嫌いだ」
「僕は貴女のその情熱的なところが好きですよ」
ルビエルは大人だが、相手は更に大人だ。
どうしても言い負かされてしまう。


その二人の言い争い(?)をそっと覗く影が二つ。
「……あのお二人は性格不一致って所でしょうか?貴方はどう思いますか?」
リプサリスの質問にクレイスはこう返すことしか出来ない。
「男女の事はお前の方が詳しいだろう?」
それもそうかもしれませんね、とリプサリスは納得すると、主人であるルビエルの赤面を可愛らしいと心から思うのだった。






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2014年 12月22日 莊野りず

テリルビです。前に書いた時微妙ながらも反響があったので調子に乗ってまた書きました。
ルビエル様の赤面とか絶対可愛いと思うんですよ。普段のギャップからして。
うちのテリオス様は真意の読めないキャラなのは、単に私の好みです。その方が絡めやすくて書きやすいので。



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