満月の夜はやけに血が騒ぐ。
街をうろついては因縁をつけてくるチンピラたちを返り討ちにする。
一度敵とみなしたからには、アベルに『手加減』などない。
あるのはどこからかマグマのように吹き出す、殺意のみ。
やがて街では夜間外出を禁止する決まりが出来た。


【月の下】


幽葬の地下通路に夜遅く帰ってきたアベルは血まみれだった。
「おかえりなさ……アベル様ッその血は!?」
レアは思わず口元を押さえる。
「心配ない。これは全部返り血だ」
「でも多少は怪我をしているのでは?」
「手当てなんかいらないからな。……こんな夜は血が騒いで困る」
そう言ったアベルの顔は冷たかった。
「……わたしは理由なき暴力は嫌いです」
「だからなんだ?」
レアはミルクパンで予め温めておいたらしいホットミルクをカップ二杯に注いだ。
「月の下でお茶会でもしましょう」
ホットミルクですがとレアは言い添えた。


「なぜ茶会なのに茶ではなくこれなんだ?」
暗に子供扱いされているとアベルは感じていた。
しかしレアは美味しそうにホットミルクを冷ましながら飲んでいる。
「月の光って凄いんですよ、聖なる力が宿るとかで、わたしもよくこうしておまじないなどしていました」
レアはホットミルクが入ったカップを月に捧げてた。
「こうすると月の神秘の力が宿って、願いを叶えてくるんです」
アベルは呆れてものも言えない。
「どうせまじない雑誌にでも載っていた奴だろう?くだらんな」
「でもわたしの願いは叶いました」
「いつの間に?何なんだ、その願いとやらは?」
レアはもったいぶって数秒間、アベルを待たせた。
「それはアベル様の血が騒がない様に、です」 レアはここに来てからもずっと変わらない。
無垢で純粋なまま、と贅沢を言うつもりはない。
ただこの従順すぎる少女が道を誤らないでほしい。
そう思っていたいつの間にか血を欲する衝動は消えていた。




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2015年 1月2日 莊野りず

レア→アベル気味なアベレアでした。
アベルはあのアラギにさえ「拳壊すぞ」とまで言われるほどの暴力振るってますが、根は素直だと信じてる!



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