そこは集合墓地だった。
ほとんどの墓は風化してしまっている。
その中に真新しい墓が一つだけぽつんと存在した。
十字架のモニュメントの下の平面には人命が刻まれている。
――カルディア、と。


【吐露】


「……正直、私は自分に驚いている。お前がいてくれたから、私は熾天使という位につけたのだな」
六翼の天使は花売りをしている妹から買い取ったすべての花を墓前に手向ける。
自分に出来ることはこのくらいしかない。
それが、今は無性に悲しかった。
「……ベイル様」
スティエンも同じく花束を持って佇んでいた。
花束の中身はベイルのものとほぼ同じだ。
同じ花売りから買ったのだから、それも当然だ。
「……お前は確か、カルディアの妹の――」
「スティエン」
スティエンは花束をベイルのものの隣に置くと、手を合わせた。
しばらくベイルはその様子を眺めていた。
十数分ほどの時が流れたが一向にここを去る気にはなれない。
「……姉さんは、優しかったの。あたしにも、弟のキロタにも」
淡々とした口調だった。
きっとそうでもしなければ泣いてしまうから、あえてそういう風な言い方をしているのだとベイルは思った。
しゃがみこんで祈りを捧げていたスティエンはベイルの方を振り返った。
「貴方にとって姉さんはどんな人だったの?ただの平凡なヒトだった?」
スティエンの問いは同じく大切な人を亡くした悲しみを共有するためのモノだった。
「……私にとってカルディアは……優しく、有能で、いつも私の味方をしてくれた」
教団にいた時には散々規格外だと責めるホワイトフェイスから密かに庇っていた。
他の天使との無駄な軋轢を生まないよう、身を粉にして働いていた。
いつも笑顔を絶やさず、ベイルに余計な心配を掛けさせるような真似は絶対にしなかった。
実に強い女性だった。
「本当に大切なひとだった……。失ってから初めてその大切さに気づいた」
スティエンはベイルの気持ちの吐露を黙って聞いている。
「本当の、本当の、唯一無二の私の唯一の味方だった……」
「……だったらなんで泣かないの?」
スティエンの方を見ると、彼女は目元に涙を溜めていた。
「あたしたちはもちろん泣くわよ?だって家族だもん!だけど、貴方はそれだけ姉さんの事を大事だって、大切だって思うのに、なんで泣かないのよ!?」
スティエンの目元の涙が頬のあたりまで流れる。
「まさか、男だから、天使だからって、変な意地張って泣かないの?貴方にとって姉さんはその程度の存在だったの?」
スティエンの勢いに、押されるベイル。
「……泣きなさいよ。この事は絶対に誰にも言わないから」
スティエンは泣くことを許してくれた。
これで初めてベイルは涙を流した。
「……本当にお前は愚かだ。私なんかのために身を犠牲にして神経をすり減らして。最期まで弟を庇って死ぬなんて……なんて愚かで、お前らしい」
スティエンのいる場所からは陰になってベイルの涙は直接見えなかったが、時々キラキラと輝くモノがあった。
彼女はそれに満足して墓地をそっと去って行った。
――これで良かったのよね、姉さん。
一人墓地に残ったベイルはいつまでもその場から動かなかった。







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2015年 1月10日 莊野りず

カルディアさん、どうか安らかに。
そんな気持ちで書いたもの。恋愛?と問われれば、「う〜ん」としか答えようがない。
一応カルディア→ベイル、ベイル→カルディアの両片思い(だった)つもりです。
私の文章力だとこれが限界です。



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