最近、アベルは行き先を告げずに外出をする事が多くなった。
この年頃の少年にはよくあることだが、レアには心配でたまらなかった。


【ニアミス】


「どちらに行かれるのですか?」
レアの問いにもアベルははぐらかす。
「どこでもいいだろう」」
結局いつも言い負けてしまうのはレアの方。
いつもアベルがどこに出かけているのかが気になって、更に疑問を口にする。
「心配なのです。貴方がどうにかなってしまうのかもしれない、って」
「関係ないだろう。オレはオレの好きにするだけだ」
そう吐き捨ててアベルは幽葬の地下通路を足早に去っていく。
それ以上何も言えなくて、レアは唇を噛んだ。


いつもどこに行くのかも聞かせてくれない。
前までは行き先くらいは教えてくれていたのに。
アベルは変わってしまったのだろうか。
それとも変わったのは自分の方なのか。
「お姉ちゃん、お鍋こげてるよ」
近くには最近攫ってきたばかりの幼いインセストがいた。
アベルはインセストを教団からさらうが、彼らのするような非道な事はしない。
ただの保護で、必要な食事は毎食与え、温かい寝床も用意する。
そんな調子だから攫われたという自覚がインセストたちにはない。
幽葬の地下通路さえ出なければ、彼らは基本的に自由なのだ。
「あっ!やだ本当に……」
煮ていた野菜が真っ黒だ。
こんな事はレアには珍しい。
「どうかしたの?アベル様絡み?」
こんな幼い子供に心配されるなんて、と我ながら情けない。
「ううん、何でもないんですよ。それより夕食の時間だから、みんなを集めてくれますか?」


それから数日が過ぎても、アベルの出かけ癖は全く治らない。
服を汚す事はないから戦闘のために出かけているわけでもなさそうだ。
ならばなぜ?という疑問が頭をもたげる。
レアはこっそりアベルの後をつけることにした。
もちろん本意ではないが、アベルが何か厄介ごとに巻き込まれていたら止めなければならない。
そう自分を納得させて、レアは足早にアベルの後を追う。
そうして辿り着いたのはヴェローナの街だった。
カインたちが滞在している所だとアベルは言っていた。
――まさか、カインを殺しに……?
まだ決着をつける時ではないと彼女は考えていた。
カインが死ぬのはもっと苦しんでからで十分だ。
しかしアベルはダリア・ビアーには向かわずに、その辺りにたむろしているレアと同年代の女子と話し始めた。
どの子も大人しそうで、ナンパの類には乗りそうもないが、アベルが話しかけると嬉しそうに笑った。
「……そんな」
アベルの一番は自分だと無意識のうちに思い込んでいたレアには大ショックだった。
何も言わなくても互いん気持ちは通じ合っている、そう思っていた。
それがとんでもない勘違いだと思い知らされてレアはいたたまれなくなってその場から一直線に幽葬の地下通路へと戻った。


その日の夜、アベルはレアを呼んだ。
離別の宣言だろうかとアベルの顔色を窺うが、彼はどこか照れたように見える。
「……ほら、これ。受け取れよ」
そう言ってアベルが差し出したのはブルーのグラデーションが綺麗なバレッタだった。
どう考えてもアベルのセレクトではないだろう。
彼には女物を選ぶセンスなど皆無だろうし。
「あ、ありがとうございます。あの……これはどうしたんですか?」
受け取ると同時に尋ねる。
あのアベルの事だ、強奪してきたと言われても驚きはしない。
「買ったんだ。決まっているだろ」
ぶっきらぼうに、でもどこか照れた様子でアベルはそっぽを向いた。
「ただ、お前が欲しがりそうなものなんて見当がつかなかったから、その辺の女に相談して……」
それで合点がいった。
アベルは彼なりにレアの事を思ってプレゼントを選ぶために相談していたのだ。
あの時の少女たちもそう考えれば納得できる。
「……本当に苦労なさったんですね。嬉しいです!」
レアはアベルに抱き付きそうな勢いで、彼に近づいた。







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2015年 1月11日 莊野りず

ニアミス=航空機同士の危険衝突の危機がある状態、だそうです。
でも今は予期しない時にばったり会う、みたいな使い方されてますよね。という事でこの意味で攻略。
どうしてもこの二人はキスまでの距離が遠いんですよね。それがうちのアベレアの仕様です。



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