リィディエールを通じて、人間たちとは無事に和解。
復活を嫌がっていたジーナローズの元に再び向かったレイジが、今回の戦いの顛末を全て伝えると、彼女は喜んで復活した。
こうして魔界と人間界、悪魔と人間たちは共生の道を歩みだした。


【花びら】


魔界でただ一本、魔王城の中庭にひっそりと植えられていた桜が咲いたと部下が言った。
彼は人間だが魔王ジーナローズの慈愛に感激して、わざわざ悪魔軍への入隊を希望した変わり者だった。
「……桜、だと?なんだそれは」
レイジが書類に軽く目を通し、サインを入れるという流れ作業をこなしながら、興味のない話題をややうんざりしながら聞き流した。
未だに人間に対する根っこの部分の差別意識は消えていない。
「人間界ではポピュラーな花です。きっとジーナローズ様が聞いたら喜びますよ」
その様を想像してか、彼の頬が赤い。
そんなものかとレイジは思ったが、彼女にしてみれば一大事かもしれない。
そう判断した彼は花が散らない様に訓練は別の場所で行うよう告げた。


ジーナローズは思いのほか桜の花が咲いた事を喜んだ。
「すっかり忘れていたわ。誰も桜なんて知らないんだもの。数年後に向けて人間界から持ってきてもらおうかしら」
すっかり上機嫌の姉はレイジがそこにいるにもかかわらず、一人でこれからどうしよう、ああしようと大忙しだ。
「……あの、姉さん。その桜ってそんなに咲くのが難しい花なのか?」
「そんな事はないんだけど、どうも魔界の気候とは合わないみたいでね、全然咲かなかったの。でも今年は人間たちとも和解したし、そのお祝いとして咲いてくれたのかもしれないわ」
そんなロマンティックな事を口走るのも新鮮だ。
彼女の今までの印象では虚ろな瞳で、物事をただ見守るだけだったのに。
「そうだわ、お花見をしましょう!パージュたちも呼んで……招待状を書かなくちゃね」
こんなにテンションの高い姉など見たことがない。
「俺も手伝うよ」
そんな言葉が口をついて出ていた。
「パージュたちはもちろんだけど、リィディエールも呼ぼう」


こうしてまだ満開とはいかないが、一応咲いた桜を見ながらの親睦会が始まった。
桜という植物の花が淡いピンク色をしているという事をレイジは初めて知った。
それはヴィディアとギルヴァイスも同様の様で、彼らも見事な淡い花に魅入られている。
「さぁ、乾杯しましょう。その後は各自の自由です!」
ジーナローズが乾杯の音頭を取ると、集まった悪魔も人間も一斉にグラスを合わせた。
内々の者にだけ招待状を出したつもりだが、なぜか呼んでもいない人間が数多くいた。
それが少し気に喰わないっが、ジーナローズさえ楽しいのならそれでいい、そう思った。
パージュたちの方を見ると、アンジェラとランガーを伴っての参加で、三人はまるで家族の様だ。
彼女の盃に桜の花びらが散ってくる。
ゆっくり、ひらひらと。
やがてそれはパージュの盃へと入って浮かぶ。
「……こういうのもたまにはいいかもね」
「風流、というのだ。しかし魔界で花見など出来る日が来るなどとは全く思わなかった」
二人は見るからにいい感じだ。
その二人の間ではアンジェラが小さな口を一生懸命動かして、この日のために特別に作られたご馳走を食べている。
「……こういうのもいいわね!」
ヴィディアは少し酔っているようで、ギルヴァイスに絡んでいる。
「ねっ、ねっ、イイと思うでしょぉ、レイジぃ?」
「バカ!お前は飲み過ぎだ!オレはレイジじぇねぇよ」
酔っぱらったヴィディアの面倒を見るのに精いっぱいなギルヴァイス。
ユーニは酒が飲めないし、風流を理解するような者でもなかったし、何よりもみんなの安全を考えて、あえて呼ばれなかった。
少しだけ可哀想だとは思ったが、いつもの行いの悪い本人が原因なのだから弁護の仕様がない。
レイジも少し酔っぱらうくらいに酒を飲み、このまま何事もないまま花見は終わるかと思われた。


「いくらアンタでも、アンジェラに関する事なら引く気はないよ!」
「落着け、落ち着くんだ、パージュ!」
自覚なしにうとうとしていたらしい。
あれだけ仲良さそうだったパージュとランガーが酒瓶を振り回しての喧嘩になっている。
酔って眠ってしまったレイジには原因が全く解らない。
「……オッサンがジュースと日本酒を間違えてアンジェラに渡してしまって、パージュ様が激怒、って状況だ」
一滴も酒を飲んでいないギルヴァイスは簡潔に事情を教えてくれた。
パージュたちの方を見ると、言い争う(パージュは割れた酒瓶を振り回している)二人の足元でアンジェラが目を回していた。
急性アルコール中毒、という奴だろうか、ジーナローズが花見を始める時に厳重注意していた。
その時、こちらですという男の声と共に、そのジーナローズが大慌てでやって来た。
「姉さんさえいれば安心だ」
「だな」
レイジとギルヴァイスは一安心した。
彼女ならばパージュでさえも引くしかない。
それにアンジェラの事も直してくれるだろう。
「……パージュ、ランガー、おやめなさい」
「ジーナローズ様!そんな事を言われても、アンジェラの一大事ですよ!?」
「でもランガーは謝っているではないですか。アンジェラなら私が治療します」
ジーナローズがロッドに魔力をこめると、アンジェラの目の焦点がピッタリ合った。
「アンジェラ!?」
パージュはアンジェラを抱きしめた。
「……本当にすまなかった、アンジェラ、私を許してくれるか?」
ランガーの問いに、アンジェラは微笑んで、彼とパージュの間に入って腕を回した。
それが答えだった。


こうして揉め事はあったけれども、楽しい花見は終わった。
人間の風習も悪くはない。
ああやって楽しい時間を共有できたのだから。
来年もまたバカ騒ぎがしたいとレイジは思うのだった。





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2015年 2月1日 莊野りず

カップリングは解りづらいけど、ランガーとパージュです。
二人が出てくるのが遅いし、揉めるのも遅いのでこんな風になってしまいました。
でもブラマト2でほのぼのワイワイ騒ぎって書く機会が滅多にないので、書いてて楽しかったです。
ワインがあるなら日本酒があったっていいですよね?花見には日本酒とか焼酎ですよ(強制)!



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