大天使長メルディエズを倒したレイジたちは魔界に凱旋した。 その後、リィディエールをはじめとした人間たちとは和解、ジーナローズも無事に復活を果たした。 今では魔界のバーにでもふらりと寄れば、悪魔と人間がポーカーを楽しんでいる風景など当たり前となった。 天使たちも悪魔と人間の両方が合体した巨大な軍を相手に攻めてくるほど馬鹿ではない。 こうして魔界と人間界はともに平和への道を歩み始めた。 【媚薬】 「あ〜暇だ」 レイジは誰に言うでもなく呟いた。 魔王城の廊下を歩いている彼が道を通るたびに、侍従たちが頭を下げる。 記憶は未だに戻らないが、人間と天使が組んで戦いを挑まれた時のような、ギリギリの命のやり取りに慣れてしまったせいか、最近の生活には不満だ。 戦っている時のような、胸がドキドキするような、あの高揚感をもう二度とあ味わえないのかと思うと平和にした事を少し後悔するほどだった。 不謹慎極まりない事である。 何か面白いものでもないかと魔王城をこうして徘徊しているが、残念ながら彼の欲を満たすようなものはどこにもない。 「ギルの部屋……何かあるかも」 ギルヴァイスの部屋に入ったのは本当に、ただなんとなくだった。 彼なら怪しい薬もフォレスターあたりから手に入れているかもしれない。 なかったらなかったで、彼の隠しているお宝でも探すのも楽しいだろう。 そんなつもりでレイジはギルヴァイスの部屋へ入った。 「うわ、本ばっかりじゃないか」 ギルヴァイスの部屋には机と大きな本棚、物置用のテーブルしか家具がなかった。 それなのに酷い圧迫感を感じるのは本棚に収まりきらない本や書類が山積みになっているからだろう。 重要な書類には『重要』のスタンプが押してあり、処理が済んだものは机の左側、未処理のものは机の右側に積まれていた。 一応は整頓しているつもりらしい。 「……ギルらしい部屋だな。ん?」 レイジは部屋を見回すと、香水の瓶らしきものを見つけた。 百合の花の形によく似た形の、ガラス製の瓶で、中には液体が入っている。 香水だろうかと軽く吹きかけてみる。 甘ったるすぎる匂いがモノでいっぱいの部屋に充満する。 「うわっ!なんだこの匂い……くどすぎるぞ」 甘い香りは嫌いではないが、それは女性がつけた場合だ。 その女性たちもこの匂いは遠慮するであろう。 花の匂いでもない、ただの人工的な安っぽい香り。 なぜそんなものがこの部屋にあるのだろう。 他にも色々と漁ってみたが、特にめぼしいものはなかったので部屋を出た。 「あら、レイジもギルヴァイスに用なの?」 部屋を出るとすぐにジーナローズに会った。 魔王城は広いので彼女に会える日は数えるほどしかない。 今日はツイている。 「ああ。まぁ。姉さんは何の用なんだ?」 「私はフォレスターが開発したって……」 言いかけて、ジーナローズはレイジにもたれかかってきた。 酔っているわけでも、体調が悪いわけでもなさそうだったので、急にもたれかかられて大慌てだ。 「姉さん?おい、姉さん!」 ジーナローズは身体をレイジに預けたまま、彼の背中に腕を回した。 そしてレイジが最も望む言葉を言った。 「愛してるわ……もうずっと一緒よ」 普段の虚ろな瞳ではなく、どこか熱っぽい瞳でレイジを見上げた彼女はかなり扇情的だった。 「姉さん?本当か?」 なんだかよく解らないが、彼女が一度でも自分に愛してるなどと言った事があろうか。 大満足でそうしていると、そこにヴィディアがやってきた。 彼女はかなり慌てている「ようで、ギルヴァイスの部屋に入ろうとしたところでやっとレイジとジーナローズに気づいた。 「……何やってるの?」 ヴィディアが若干引いているが、レイジは自慢するようにジーナローズの腰に手を回した。 「見ての通りだ。姉さんが俺の事愛してるって」 嘘でしょ、と言いかけたヴィディアだが、彼女もレイジの背中から抱き付いて来た。 「え?」 「好きよ、レイジ」 背中側の首筋にキスを落としながら、ヴィディアは熱っぽい声でそう言った。 「あっ、あのぅ、ヴィディアさん?」 これにはレイジも困ってしまった。 「レイジはどこか知っているか?」 そこへギルヴァイス目当てだと思われるリィディエールが顔を出した。 二人の女性に抱き付かれているレイジを見た彼女は固まった。 「……」 「いっ、いや、これには……」 レイジが必死に言い訳を考えていると、聞きなれた天の助けの声が聞こえた。 「お前ら、オレの部屋の前で何してんの?」 ギルヴァイスは事情を聞くと、まずレイジを叱りつけた。 「だから前から言っておいただろ?オレの部屋に入る分には構わないけど、不用意にその辺のものを弄るなって」 「……はい、反省してます。だからコレ、どうにかしてくれ!」 未だにレイジの身体にはジーナローズとヴィディアがくっついている。 リィディエールはそんなレイジを汚らわしいものを見る目で見ていた。 「どうにかっつっても、あれはフォレスター様がユーニ様のご依頼で開発されたそうだしな。解毒薬はないらしい」 「何でユーニがあんな薬欲しがるんだよ!?しかも解毒剤なし!?」 「……ユーニ様は翼ハーレムを作る事が夢なんだそうだ。生きたままの翼の鮮度がお好きなようで」 「そ、そうか」 相変わらずユーニは恐ろしい事を考えるものだ。 しかし解毒薬がないとなると――。 「俺はこれからどうすればいいんだ?姉さんもこの調子じゃ、謁見も叶わないぞ?」 「それはお前が代理で立てばいいだろ。一応この平和の功績はお前のものなんだし」 事もなげにそう言ってのけるギルヴァイス。 レイジは嬉しいやら辛いやら大変やらで、頭がパンクしそうだ。 リィディエールは自分でまいた種なんだから何とかしろと、ただレイジを励ますだけだった。 ______________________________________________ 2015年 2月16日 莊野りず 書いてて楽しかったレイジのプチハーレム。 ブラマト2ってギャルゲーっぽいところもあるし、いっそギャルゲーみたいにしちゃおう!なんて思ったのがきっかけです。 最初の案ではリィもハーレムに入れるつもりだったんですが、三人に抱き付かれるのは流石に限界かと諦めました。リィのデレもあまりないし。 ギルはいつも巻き込まれたばっかりなので、今回は傍観者ポジションです。