魔王城謁見の間、ここは魔王ジーナローズとの謁見が叶う唯一の場所。
群衆は毎回押し寄せては美貌の魔王との謁見に皆が心を躍らせる。
「次の方、どうぞ」
よく通るソプラノの声に導かれるように、その悪魔は進み出た。
彼の陳情はもっと謁見の機会を増やしてほしい、というものだった。
今までにもそのような陳情は多かった。
魔王に会えるだけでも光栄な事なのに、更に会話もできるとなれば悪魔たちの士気も上がるというものだ。
そう彼は熱っぽく語った。
ジーナローズはその勢いに飲まれてしまいそうだ。
「……ところでジーナローズ様、その首の痣、どうなさったんですか?」
そう言われて会話に夢中になっていた彼女は慌てて首元を押さえた。
「……何でもないの。ただの虫刺されよ」
男は不審そうだったが、憧れのジーナローズと話せただけで気分がいいらしい。
首の痣の事にはそれ以上触れなかった。
あとは施設の充実、育成機関の増設などの陳情が続き、その日はそれで謁見は終わった。


【鬱血】


「レイジ」
ジーナローズはすぐ傍に控える実弟兼臣下の方を振り向く。
「なんでしょう」
レイジは謁見中には一言も口出ししなかった。
臣下としてはそれが正しい。
しかし今日に限ってはもう少し口を挟んでほしかった。
「疲れたわ。早く休みたい」
それは二人だけの合言葉だ。
「……そうですか。ヴィディアは姉上の部屋に支度を、ギルはこの場の後片付けを頼む」
レイジは自分の腹心の部下二人にそう命じた。
そして少しだけ顔の緊張を緩めた。
謁見の時間が長くなると、大概ジーナローズは疲れ果てる。
彼女の魔力が自動的に謁見の間にいる悪魔に移ってしまうからだ。
おかげでいつも謁見の際にはいつ体調を崩しても大丈夫なようにレイジたち警護の者の他に医療班が待機している。
部下に命令を下し終えた彼は、ジーナローズの元へ手を伸ばす。
「さあ、姉上。部屋までお送りします」
レイジの手を借りて、彼女はゆっくりと立ち上がった。
二人が通る時には他の悪魔たちは道を開けて頭を下げる。


大分消耗した様子のジーナローズを部屋へと運び、ベッドに横たえる。
繋いでいた手を離し、その手の甲に口づける。
「……大丈夫か?」
プライベートモードになったレイジはやや砕けた口調でジーナローズを気遣う。
「ええ、それにしても見られているものね。冷や汗をかいたわ」
首元を隠しているチョーカーを少しずらす。
そこには例の男が指摘した通り、痣らしきものがあった。
「見せつけてやればいいじゃないか。姉上は俺のモノだって」
「冗談はやめて。これが露見したら、魔界は混乱するわ」
子供のようにつまらなそうな顔をするレイジ。
まるで大事なおもちゃを自慢したくてしょうがない、幼い子供の様だ。
普段はカルテットの長であるジェネラルとして君臨しているのに、こんな一面があることを知っているのは自分とあの二人の部下しかいないと、内心で嬉しく思う。
「どうしたんだ?そんなおかしそうな顔をして?」
ジーナローズの事となるといつも目の色が変わる。
姉としてはいつまでもは流石にマズイと思いつつ、それが愉快でしょうがないという思いもある。
まるで毒婦になったかのような錯覚を覚えるこの二人だけの時間は決して嫌いではない。
「……なんでもないわ。それより、いつものがそろそろ欲しいかな、って」
「なんだ。それならそうと速く言えばいいのに」
ベッドの上に縫い付けるように、レイジは彼女の体の上に覆いかぶさり、あらゆる場所にキスを落とす。
ただキスだけしかジーナローズは許していないが、それでもレイジは満足しているようで、翌日になるといつも上機嫌なのだ。
それにただのキスではなく、強く吸いつけるような地味だが跡が残るような刺激の強いも< 今夜のレイジは首元を中心に攻めてきた。
「そんなにつけたら怪しまれるわ」
「いいんだよ。余計な虫除けだ」
レイジのキスは止まらない。
いつも最後は唇どころか舌を絡めるところで終わる。
今日もそれで終わった。
時計が十二時を指していたからだ。


ヴィディアはジーナローズを起こして来いとレイジに命令された。
魔王と言えども彼女は女性なので、同じ女性のヴィディアに命じるのは当然だ。
「ジーナローズ様、失礼します。……えっ!?」
スリップ姿のジーナローズが支度をしている最中だった。
ヴィディアの視線が自然と首元に向かう。
そこには大量の鬱血した跡があった。
どうしたのかと問おうとして、やめた。
昨日の事はよく覚えているし、レイジの彼女への執着はずっと近くにいたからこそよく知っている。
「どうしたの?」
言い訳一つしないジーナローズにヴィディアはそれだけで敵わないと実感するのだった。







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2014年 12月9日 莊野りず

鬱血→痣→キスの跡、というのはベタすぎでしょうか?
珍しくちゃんとレイジナになってるよ!?ジーナローズ様もまんざらじゃないよ!どうしたの!?
最初のネタとしては、『レイジが無理やり』系でいく予定だったんですが、『ノリ気の姉さんとの共依存』もアリじゃないかとシフトチェンジ(笑)。
キスだけでなんかエロい雰囲気が出せたらな〜とか思って、ちょっとその辺工夫したつもりですが、いかがでしょう。



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