恋愛五十音のお題 色々なNLオンリーで攻略中

も もっと


  

あの日、あの時、あの場所で。
わたしはアベル様と出会いました。
運命など信じていなかったわたしにとって、翼は黒くても、彼は天使様のように映ったのです。


【もっと】


「じゃ、行ってくる。……パスカには十分気をつけろよ」
「はい、アベル様こそお気をつけて」
最近のアベル様は明るくなったと思う。
最初に出会った時のわたしの言葉に憂いを感じていたようだったから。
やり方こそ乱暴だけれども、彼が本当はすごく優しいという事は、わたしが一番よく知っている。
守られえ、大切にされて、時々甘えてくれて。
もうこれ以上ないくらい、わたしはアベル様に大切にしてもらっている。
でも時々、もっと、もっと大切にされたくなる時がある。
もっと優しい言葉をかけてもらいたい。
もっと褒めてもらいたい。
もっと守ってもらい。
もっと、もっと、もっと……。
してもらいたいことを上げればキリがないくらい。
こんな事を考えるわたしは我儘だ。
今の待遇でさえ贅沢が過ぎるというのに。
なのにわたしの理性では押さえられないくらいに、本能が叫ぶ。
もっと、もっと、もっと、と。
こんな事を言えばきっと、いや、確実に嫌われるだろう。
だからわたしは本能を必死で抑え込む。
嫌われないために。
不用だと思われないために。


その日の帰りに、アベル様はお土産を持ってきました。
「わぁ、ケーキ!」
アベル様に好物を言った覚えもないし、そろそろ甘いものを食べたい頃だという事も伝えてはいない。
それなのに……。
「お前が食べたがってたからな」
そういえばアベル様はわたしが言葉を発しなくても、考えが読めるのだった。
すっかり忘れていた。
このままではわたしの浅ましい想いまで漏れてしまう。
案の定、わたしの想っていることはしっかり伝わったらしい。
「……」
――……流石のアベル様も引いたかしら?
でも口に出すわけにもいかない。
ケーキを食べる途中で流れる気まずい空気。
何とかしなくちゃとは思うけれど、どうやって?
するとアベル様はいきなりしゃがみこんでわたしの顔を見つめる。
無言なのは怒っているから?
わたしが不安になると、アベル様はわたしの額に唇を寄せました。
「……え?」
思わず呆然となるわたし。
こんな時にどうしていいのかはわたしには解らない。
「……オレにはよく解らんが、これで満足か?」
アベル様は恋愛事にはめっきり疎いらしい。
真っ赤になっていると思うわたしの顔を見ても、全く表情を変えない。
普通はこういう時にはお互い照れくさくなるモノですよ?
わたしがそう想っていると、アベル様はようやく察した様で、いつもの不敵な笑みに戻った。
「ああ、……これでは不満か?」
いつものどこか不機嫌そうなアベル様の顔は少し朱に染まっている。
わたしは自分でできる最大の笑顔で言う。
「はい!」






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2015年 3月21日 莊野りず

久しぶりな気がするほのぼの甘々アベレア。
アベルくらいの年頃の少年は少し鈍いくらいでちょうどいいんです。これ私の正義。
たまには欲張りで我儘なレアもいいものだと書いてて思いました。




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