恋愛五十音のお題 色々なNLオンリーで攻略中

る、ルフラン




――どうか幸福でありますように。
月の光を浴びながら、地下通路の外の湖で一人佇んでいる。
彼女はインセスト、悪魔アベルの従者。


アベルが戻ると、レアは分厚い本を開いて祈りを捧げている最中だった。
何かを小声で呟くその姿はどこか不気味でさえあった。
「……何をしているんだ?」
宗教じみたことは大嫌いなアベルがやや不機嫌に尋ねると、レアはゆっくりと振り向いた。
「お帰りなさいませ。今はお祈りをしていたのです」
「祈りだと?誰に?神とやらにか?」
無神論者のアベルにはこの会話は不快だ。
レアもそれを察したのだろう、首を横に振る。
「ただの詩の暗唱です。宗教でも何でもありません」
どこか厳かなこの空間に居心地の悪さを感じ出した頃、レアは台所へとアベルを導いた。


「今日はリゾットにしてみたのですが、いかがですか?」
先ほどとは違い、すっかりいつものレアだ。
その事にホッとしていると彼女はスプーンを持つ前に手を合わせて祈っている。
また不快になったアベルはせっかくのリゾットを早口で食べ終えた。
「……お前はオレだけを信じていればいいんだ」
今やっとスプーンを持ったレアは一瞬きょとんとしたが、すぐに頷いた。
「もちろんです。わたしを教団から救ってくださったのは神でも天使でもない、悪魔の貴方です」
「解っているならいい。……それにどうせ祈ったところで誰も助けてはくれないんだ」
それだけ吐き捨てて、アベルは台所から去った。
レアはリゾットを口に運びながら、そのアベルの背中をずっと見つめていた。


眠る前、再び月に祈るために外へ出た。
手にはグーテンベルグがあった。
教団の教えが記されている、レアにとっては忌まわしいものだが、その中に印象深い詩が乗っていた。
――汝と汝の愛する者のために祈れ、汝の敵には呪詛を吐け。愛する者よ、どうか幸福であれ。
この一節が気に入った。
レアは基本的に平和主義者だが、戦わなければならない事もよく理解している。
だからこの詩にはとても共感した。
「わたしの愛するアベル様に幸福を。カインには無残な死を」
そのアンバランスな祈りは果して月に届くのだろうか。
そんな事を考えながら、レアは詩を繰り返し暗唱するのだった。





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2015年 6月10日 莊野りず

ルフラン=各節の終わりに同一の詩句を繰り返すこと、だそうです。
……これには本当に苦労しました。意味がよく解らないし、どうやって恋愛につなげようかと四苦八苦(笑)。
結局信心深そう(に見える)レアとそれを不気味に思うアベルでいきました。
突然よく知った人が怪しいこと呟いてたら、そりゃびっくりですよね。





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