恋愛五十音のお題 色々なNLオンリーで攻略中

ろ、牢獄




「そこまでですよ」
そう言った少年の背には白い羽。
「チッ、いいところだったのに。教団のボンクラ天使どもはいつもイイところで邪魔しやがる」
アラギが悪態をついて見せる。
いかにも楽勝だという態度だった。
「それが僕は三流の天使ですが……今日は一流の皆さんがご一緒でね」
フンと鼻を鳴らすルビエル。
その後ろに控えるリプサリス。
そしてテリオスのすぐそばに控えるクレイス。
流石にアラギと言えども手間取る猛者ばかり。
結局抵抗らしい抵抗は出来ず、ルカはアラギと共に教団に捕まった。


「サイアクだわ」
囚われてから数万回目の「サイアク」の言葉がルカの口をついて出た。
せっかくアラギを捕まえるチャンスなのに、鞭は当然取り上げられていて、手も足も出ない。
その事が悔しくて仕方がない。
幽葬の地下通路に天使が来るなんて考えもしなかったが、あのテリオスという少年はどこか自分より上手な気がする。
「まぁ、そんなにイラつくなよ」
呑気にそんな事を言うアラギ。
「誰のせいだと思ってるワケ?」
ルカがせめてパンチくらいは繰り出そうと拳を作る。
「あーやめとけ。俺はお前のクセくらいよく知ってるから」
あくまでもこの調子でいるつもりのようなアラギにやや脱力する。
多分、カインたちは助けに来るだろうという希望的観測がルカにはあった。
最悪でもザイオンは自分を見捨てはしないだろう。
それに対して、アラギの仲間らしいあのアベルとかいう生意気なガキが助けに来るような律儀な性格とは思えない。
なのになぜここまで余裕があるのだろう。
天使に捕まり大ピンチなのに、どこか楽しそうなこの男の神経が解らない。
「……こうして二人きりでいると思いだすなぁ。昔の事とか」
「はぁ?」
いきなり何を言いだすのだ、コイツは。
「泣き虫ソリュウをからかうとお前は自分の事みたく俺に食って掛かっていたよな」
すっかり思い出の中に浸っている。
どうせ助けが来るまでは暇だ。
アラギの話に乗ってやってもいいか、なんて思った。
「……そうね。アンタって昔からソリュウをからかってばっかりだった。何が楽しくてあんなことしてたの?」
「う〜ん。やっぱり単純な奴をからかうのは楽しいからな。ルカだってそうだろ?」
「まぁ、ね。でもアタシはアンタみたいに心の底からイジワルはしなかった」
「ああ、そこが俺とお前との違いだな」
教団に捕まっているというのに、この呑気な雰囲気は何事だろう。
アラギは敵だ。
村から大事なペインリングを盗んだ、極悪人。
しかしルカは昔の彼を知っているからか、天使に捕まるきっかけの戦いにおいて、つい手加減をしてしまった。
「……昔からルカは気高かったよな」
少し考え込んでいる間に、アラギは別の事を言いだした。
「なによそれ?」
「いやぁ、悪魔のくせに妙に優しかったり、世話になった奴には冷たくなれないし、悪魔らしくねぇな」
褒められているのか貶されているのか。
それは解らなかったが、妙に好意的だ。
「何が言いたいの?」
アラギはにっと笑い、ルカに顔を近づける。
「お前が好きだって事だ」
ニヤニヤしながらあっけらかんと言い放った。
あまりにも突然だし、追っている相手にそんな事を言われるとは万が一にも思わない。
「……バカにしてんの?」
その時、僧兵の処刑を告げる声が響いた。
「おっと、のんびりしてる暇はないか」
アラギはあっさりと牢獄を破壊した。
そして驚いて動けないルカの唇を奪った。
あまりにも一瞬の出来事で、文句も思うように出てこない。
「じゃあな!」
アラギは黒い翼を広げて、広い空へと飛び立って行った。
僧兵たちはそれを追おうとするが、翼がない彼らには無理な話だった。


カインたちが助けに来たことで、絶体絶命の危機からは逃れられた。
「大丈夫だったか?」
心配してルカに詰め寄るザイオンだったが、次のルカの一言で彼は驚いた。
「助けに来るのが遅いのよ!おかげでアタシは……」
――アラギにキスされた。
そんな事、口に出せるわけがない。
ルカは牢獄に囚われると同時にアラギの言葉にも囚われたのだった。




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2015年 月日 莊野りず

また需要なさそうなものを……。
アラギって半分くらいは本気でルカの事が好きだと個人的に思ってます。
ほら、俺好みのイイ女とか言ってるし。
敵対関係のカプを書くのも楽しいものだとこれ書いてる途中で思いました。




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